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新・目標追求システム

昨日、名古屋市内において「経営計画作成講座」を開催した。年末の慌ただしいムードの中、しかも今夜はイブだというのに多数の経営者が集まり、来年以降の目標を決める作業を行った。

そんな中、次のような質問を受けた。「毎年わたしはこのような計画を作っているが計画通りになったことがない。何がいけないのだろうか?」というものだ。

結論から申し上げると、作ることに意味がないのではない。また、書式が悪いわけでもない。作ったあとのシステムに問題がある。戦争でいうならば、爆弾を使っているから当たらないのであって、ミサイルを使うべきなのだ。しかもそれは、「新・目標追求システム」を装備した戦略ミサイルでなければならない。

爆撃機などに積まれた爆弾は、目的地の近くまで行ってから投下され地上で爆発する。それは目標物が動かない建物などの場合には効果がある。だが、獲物が動くと当てるのは困難だ。また、爆撃の精度を上げるために、地上近くまで飛行機で近づくと、今度は逆に迎撃される危険性もある。いきおい、遠い位置から投下することになって、当たりにくくなるという相関関係にある。

そこでミサイルが誕生した。これは、目標を追求する装置が付いているために、獲物が動いていてもミサイルがそれに合わせて移動する。パトリオット(迎撃)ミサイルに落とされないかぎり、精度は抜群だ。

企業経営には、このミサイルの機能が欠かせない。なぜならば経営環境は絶えず変化する。獲物は動いているのだ。従って、今年作った目標や計画で来年勝負できる保証は何もない。内外の経営環境の変化によって、目標や計画は刻々と変わっていくのだ。ならばなぜ、目標や計画を作るのか。それは、スタートするために必要なのだ。発射台にいたままではミサイルは役に立たないのだ。

そんな折り、面白い読者メールに触れた。ご紹介しよう。

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千葉県柏市のキャリアスケープ・コンサルティング小野田です。組織・人事のコンサルタントをしています。「がんばれ社長!」をいつも拝読させていただいております。今月発売された月刊誌「ハーバードビジネスレビュー」1月号にて、H.ミンツバーグの経営学に記載された「戦略クラフティング」という論文がありました。 本論文は、通常の戦略策定-理路整然と分析され、意図され、計画された戦略プランニング-とは別に、いろいろ考えているうちに知らず知らずのうちに生まれてくる戦略「創発戦略」というのがあるのではないか、と指摘されています。芸術家は、目的、あるいは最終的な姿を頭の中に持って作品を仕上げるではなく、書きながら、こねながらつくっていくことになぞらえて「クラフティング」とミンツバーグは呼んでいます。 戦略策定は私の本業ではありませんが、組織・人事とは無縁ではありませんのでここに関わることがありますが、いわゆるチャート類に落とし込んでいくことの空しさ、虚構性を常に感じておりました。頭を付き合わせて、ああでもない、こうでもないと話しこんでいるうちになぜかできあがってしまった、一人でいろいろ考えているうちに天明のように頭に浮かんだ-そんな戦略の方が、実際には現実味があるように思えるのです。経営者の方も戦略系コンサルタントが持参するようなチャート類を頭に入れて考えているとは思えません。 なお、ミンツバーグはこの「戦略クラフティング」が100%正しいといっているのではなく、双方が必要であろうといっています。その通りだと納得しています。
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小野田さん、ありがとうございます。

「戦略は前もって計画され、書式に記入できるもの」というのは、環境がそれほど大きく変化しない前提で成り立つ。以前にご紹介した『ビジョナリーカンパニー』(日経BP刊)では、“崩れた神話”と題して私たちが無意識にもっている常識が、実態とはかけ離れていることを指摘している。その“崩れた神話”のなかに、次のものがあることを見逃してはならない。

1.すばらしい会社をはじめるには、すばらしい事業構想か画期的製品が必要である。
2.大きく成長している企業は、綿密で複雑な戦略を立てて、最善の動きをとる。

この2項目はいずれも現実的ではないのだ。

「すばらしい構想」「すばらしいビジョン」をかかげて会社をはじめようとすること自体が悪い構想かもしれない、とこの著者は皮肉る。ビジョナリー・カンパニーには、具体的な構想をまったく持たずに設立したものもあり、スタートで完全につまずいたものも少なくない。

また、今でこそ先端的な企業となった会社の中には、実験や試行錯誤、臨機応変によって、そして、文字どうりの偶然によって生まれたものがある。あとから見れば、じつに先見の明がある計画によるものに違いないと思えても、「大量のものを試し、うまくいったものを残す」方針の結果であることが多い。この点では、ビジョナリー・カンパニーは、種の進化によく似ている。ビジョナリー・カンパニーのような成功を収めようとするなら、チャールズ・ダーウィンの『種の起源』の概念の方が、企業の戦略策定に関するどんな教科書よりも役に立つ、と「ビジョナリー」の著者は断言している。

ただし、くれぐれも誤解がないように。戦略も目標も計画も不要だと教えているのではない。それらはいずれも大切なものだ。だが、やりながら変更を加えていくものであり、朝令暮改も交えて、クラフティング(工芸)するものなのだ。クラフティングすることによって、爆弾ではなくミサイルになり、しかもそれは、発射台にいたときとは別の獲物に目標を変更できるミサイルなのだ。それこそ、企業経営に必要な「新・目標追求システム」と呼べるはずだ。