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成功の拒否

あなたがやりたいことは「A」という仕事、でも周囲があなたに期待していることは「B」という仕事。そこにはズレがある。

前途洋々でスタートしたベンチャー企業が1~2年後にはおそろしく平凡な会社になるのも、この「A」と「B」のギャップに気づかずに経営するからだ、と指摘するのは、かのドラッカーである。
それは、どういうことか?

「ネクスト・ソサエティ」(ダイヤモンド社)にて氏は、ベンチャー経営者がよく陥る典型的まちがいを四つあげている。その第一が、『成功の拒否』だというのだ。

同著では次のような例をあげて、自分のもくろみに固執することの危険性を訴えている。

貨物車用にベアリングを発明したジョン・ハイヤットは自らの発明品をひっさげて鉄道会社に営業攻勢をかけた。

「こんな便利なものを発明しましたが、鉄道の車軸に使ってみませんか?」と営業したに違いない。

だが、当時の鉄道会社はどこも買わなかった。

なぜなら、車軸には油を染みこませたボロ布を詰めており、ベアリングがなくても充分まにあっていたのだ。結局ハイヤットは、鉄道会社に働きかけ続けたが、時間切れであえなく破産した。

ところがGMのアルフレッド・スローンがこのベアリングに目を付け、事業を買い取る。そして二年後には自動車用として事業を軌道に乗せ、ライバル社のフォードがこのベアリングを買ってくれる最大顧客となってGMに多大な利益をもたらした、というのだ。

たしかにこの出来事から、ハイヤットは成功を拒否したかのような経営を行った。あまりに単純な経営判断ミスを犯したのだ。それは、鉄道がダメなら自動車にアタックすべきだった、という結果論である。

だが、この時代は100年前の鉄道全盛の頃であり、フォードの車がまだ日本に一台も輸出されていないころだ。自動車が産業とも呼べないほどの小さな市場だったのである。
新発明のベアリングの用途として一番大きい市場は鉄道であり、そこにだけ目が行くのも不思議ではない。

では、なぜこのような『成功の拒否』という過ちを犯してしまうのか。そしてあなたが、私が、このハイヤットのようにならないためにどうすべきかを考えてみたい。

再びドラッカーの言葉。
「発明や製品の多くが、目論んでいなかったところで成功する。だが、多くの起業家が、市場より自分を信じたために消えていっている。」

人がなんと言おうと俺はオレ!オレ流を貫くんだ、という考え方もある。個人の生き方としてそれが魅力だ。だが、事業とは顧客と市場を創造する活動である限り、市場の声を聞かずして成功はあり得ない。

ビジネスにおいて、市場と自分とどっちを信じるか、それは市場だ