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続・不十分を知る

今日の主題を明確にしよう。それは、「人前でなぜアガらないためにどうすべきか。」である。

もし話を聞いてくれる人が誰もいなかったらアガルか?そんなはずはない。では、家族が聞いてくれる場合はどうだろう?これも、きっとアガラずにすむのではないだろうか。ならば、友だちの場合は?上司は?見知らぬ人は?、・・・という具合に、聞き手とあなたとの関係がどの程度親しいかによって緊張度が大きく左右してくる。

次に、シチュエーション(場面)の問題だ。仲間内の楽しいおしゃべりでは緊張しないが、その仲間同士であっても、朝礼の場となるとうまくしゃべれないときがある。また、経営方針発表会で声が震える社長もいる。これなどは、聞き手との関係ではなく、公式の場か非公式かという場面設定の問題である。

この二つ、「聞き手との関係」「場面設定」によって緊張度が変化するが、これらはいずれも自分側の問題とは違う、相手側・環境側の問題だ。

アガル心理のもう一つは、自分側の問題である。
自信がない、緊張してしまうという自己イメージは自分側の問題だ。

昨日ご紹介した江川ひろし先生の話し方教室では、充分な準備をすることの大切さを強調する。準備によって話の良し悪しの9割が決まるとまでいう。準備は、アガルことを防ぐ対策として極めて重要であるとして、準備の技術まで徹底的に指導される。

準備段階でまず大切なことは、「主題を明確にする」ことだ。しかもその主題は、ひとつである。何が言いたいのかをはっきりさせたうえで、要点つまり、話題と材料選びにはいる。
例をあげよう。

主題・・新郎の田中八郎君に心からオメデトウをいってやりたい

要点・・田中君と私とは20年来の友だち
一緒に山に登ったときの体験
受験のときのあのがんばり
酒で失敗したあのエピソード
新婦の幸子さんとの出会い直後の田中君
プロポーズ成功のその夜、二人で飲んだ話
これからも家族づきあいしたい

このようにまず、主題と要点を明確にし、頭の中で何度も繰り返してシナリオを完成させる。話し下手の人はこの段階から誤りをおかすのだ。それは、全文原稿を作ろうという誤りだ。私もどきっとした。

これをやると、江川先生に「もっとも稚拙な方法」と叱られる。なぜなら全文原稿は、丸忘れにつながるだけでなく、聞き手に顔を向けることができない、という重大な問題があるからだ。

さて、これで話の準備はできただろうか?
とんでもない。料理で言えば、レシピを揃えた段階に過ぎない。ここからが準備の本番だ。それは、

・声に出して話す
・30回練習する
・時間を計る

を行うことなのだ。

私も声に出してスピーチの練習をした。それだけでなく、録音までしてチェックした。それによって初めて気づいた問題点、それは抑揚がなく単調になるということだった。
なぜ単調になるか、それは上記にあげた要点のすべてが状況説明風であるため、話全体が説明風に終わるのだ。トーンが変わらない。

そこで、助言に従って会話を盛り込んでみる。ちょうど落語の八さん
・熊さんみたいな感じで当時のやりとりを再現してみた。すると、どうだ。
俄然良くなる。

30回練習する。
我ながらビックリする。まったくよどみなく、リラックスしてせりふが出るようになる。
あの~、え~、その~、が一度も出ない。よどみがないのだ。それでいて、充分な間がある。
ゆうべ練習してこなかったという人は一発で見抜ける。それは言葉がよどんでいる。間を怖がっているのだろう。

「そうだったのかぁ。どうして役者さんたちが、あんなにも長いせりふを覚えられるのか不思議だったが、30回やれば話しを自分のものにできるのだ!」
ということを肌で感じる。

そして時間を計ってみるのだ。上手な話し方とはなにか?話し方センターでは、次のように定義している。

「適切なときに、適切な内容を、適切な時間話せること」

へたな人は、その逆をやる。

ちょっとなれてきた人は、勝手に長話をするが、これも話し手としては失格であるとして厳密に時間測定される。実際に計りながらやると、話題を削るはめになったり、別の話題に差し替えるなどの作業が生まれ、シナリオを何度も書き直すことしばしばである。

以下は私流の解釈を申し上げる。

アガルという心理は、理想と現実のギャップを、話し手本人が認識したときに始まると思う。
理想・・・人前で恥をかくことなく堂々と話しをしたい
現実・・・でもうまくしゃべれない、と思っているし、事実過去はそうだった。

このように理想と現実のギャップを自分でわかっている人はアガル。アガラない人とは、理想と現実にギャップがない。それは理想がもともと低い、もしくは理想がないか、あるいは、本当に現実のレベルが高い人だろう。話し上手になると決心することは、理想の水準を高めることから始まる。そして、その理想に追いつこうと努力することだ。努力とは、準備と練習であることをこの講座で知る。本番は1割程度の比率でしかない。

今日の主題「アガラないためにどうすべきか」だった。その答えは『充分な準備』である。歴代の米国大統領の中でも、屈指のスピーチ上手といわれるウッドローですらこういう。

1.私に1時間の話をせよと言うなら準備の時間はいらない
2.私に20分の話をせよと言うなら、2時間の準備時間がほしい
3.私に5分の話をせとと言うなら、一日と一晩ほしい

準備が命なのだ。このように修羅場をくぐった話し手にとっては、アガルということとは無縁のものになるに違いない。
昨日もこのマガジンをご覧になって、幾人かの方が話し方講座に申し込みされたと聞くが、大変すばらしいことだと思う。

江川先生にじかに接することができる3日間講座がベストと思うが、低予算で反復可能なCD12巻セットという選択肢もある。私は両方チョイスした。心からおすすめしたいと思います。

日本話し方センター http://www.ohanashi.co.jp/