日本の観光地・人気ベスト5を都道府県で回答せよ、と言われたらあなたはどのように答えるだろうか。歴史や文化があって、自然や街並みが美しく、おいしい食事やお酒があって良いお湯でも湧いていたら申し分ない。おもてなしの精神がそれに加われば天下無敵の観光地になるはず。
京都、沖縄、北海道、東京、大阪、神戸、福岡、名古屋、横浜、広島、金沢、仙台、奈良、高山、鹿児島…などが上位にくるだろう。四国や東北、北陸にも見どころが一杯あるし、世界遺産に登録された富士山の静岡、山梨も人気が出るだろう。また、伊勢神宮と出雲大社がある三重、島根も根強い。そう思って観光客数ランキングが載ったホームページを探してみたが、残念ながら見つからなかった。やむなく、コツコツと観光客が多そうな都道府県の観光局のホームページをしらべてみた。その結果は少々意外なものだった。
1位:東京都(年間観光客 4.7億人)
2位:神奈川県( 〃 1.7億人)
3位:大阪府( 〃 1.6億人)
4位:愛知県( 〃 1.4億人)
5位:兵庫県( 〃 1.3億人)
6位:福岡県( 〃 1.0億人)
あとは、京都が 5,000万人、北海道が 4,800万人、奈良 3,400万人、広島 2,300万人、沖縄は 600万人という結果だった。
ちなみに中高生が修学旅行で行きたい観光地のベスト5はこちら。データは少々古いが、これが案外日本人全体の総意を反映しているように思うがいかがだろう。
1位:沖縄
2位:北海道
3位:東京ディズニーランド
4位:京都
5位:東京
★オリコンスタイル(2006年調査)
⇒ http://www.oricon.co.jp/news/ranking/22915/
こうした観光客ランキングというものは、それぞれの都市が賢明な観光誘致に取り組んだ賜物である。
「京都ってもともと歴史と文化があるから」「沖縄は自然が豊かだから」「北海道は食べ物がうまいから」などと考えて、努力しなくても人が集まるように思っていたら大間違いだろう。
京都の場合、「禁門の変」の大火災で京都の大半が焼け、その数年後には「天皇さま、行かないで」と市民の多くが懇願するが、結局、江戸(東京)への遷都が決定。京都の人口は 2/3になり、市街地は閑古鳥がなく有様だった。このままでは京都が完全にダメになる。そこから始まった劇的な復興劇とはなにか。
まず一番目は外国人誘致に目をむけたことである。当時の京都は会津藩士・山本覚馬を政治顧問として招いた。その理由は、海外事情に詳しく、外国人人脈も多いことであった。平成の今日でこそ外国人を観光誘致することは常識中の常識だが、直前まで鎖国政策がとられていた日本。幕府を倒す大義名分も攘夷(外国人を追い払って日本に入れるな)をスローガンに抱えていたわけだ。そんなときに、外国人を呼ぼうというのは「君子豹変」というべきほどの変わり身の早さである。藁(わら)をもすがる気持ちだったのだろう。
まず、日本の伝統文化や伝統産業が外国人にどの程度伝わるものか、テストマーケティングしたのが「パリ万博」(1867年)への出展だった。日本館では、精巧な工芸品を展示した。外国人からみれば、海のはるか向こうの鎖国していた国がこんなに素晴らしい文化をもっている、驚いた。フランスでは「ジャポニズム」といわれる空前の日本ブームがわき起こった。
山本覚馬は「今がチャンス」と捉えて、京都でも博覧会を開催することにした。「京都の魅力を海外の人に是非とも伝えたい」と開催した京都博では、外国人が喜びそうな展示品を集めまくった。甲冑、刀剣、絵画、書、工芸品、日本食、お茶、魚、鳥などなど。さらには日本初の外国人向けガイドブックを英文で完成させている。さらに、フランス料理のフルコースが食べられるよう料亭を料理指導した。その当時のメニューが残っているが、「前菜、サラダ、スープ、メインディッシュ、デザート」など、当時の日本食にはなかった概念に戸惑ったことだろう。豚のローストビーフ、豚のビーフステーキ、羊のビーフステーキというメニューも残っていることから、ビーフの意味も分かっていなかった可能性がある。
青い目をした外国人を奇異の目でみてしまう京都市民に対して、失礼があってはならないと徹底的にガードマンが観光客の身を守った。
人力車に乗って市内観光するときにも、その脇をガードマンが走った。道に迷う人、体調を崩す人、すべてをガードマンたちが守った。
「なんて素晴らしい街なんだ」と京都の評価が急上昇していった。やがて外国人の旅行が自由化されると、どんどんと京都を訪れるようになった。
こうして観光によって復興の足がかりをつかんだ京都は、次に産業再生のために物流の大動脈づくりに取り組むことになる。それが「琵琶湖疎水」プロジェクトであった。
<明日につづく>
※参考:★NHK 歴史秘話ヒストリア 明治の京都へおこしやす
⇒ http://e-comon.co.jp/pv.php?lid=3717