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決断力を磨く

Rewrite:2014年3月26日(水)

ある経営者が冗談めかして語った。
「ソフトバンクの孫社長は何千億という投資案件も、たった5分で決めちゃうそうですよ。やっぱり優れた経営者は決断が早いのですね。それに比べて私は優柔不断でねぇ。うどん屋に行っても何にするか、迷っちゃうんですよ。」

私が笑っていると、さらに続けて「そこで最近、即断即決の訓練をしているんです。昼食に何を食べるかという事くらいなら簡単に即決できますが、人の採用や投資案件などはなかなか即断できるものではないですね。」

決断力を磨くという課題を持つことは意味のあることだ。しかし、うどん屋でメニューを決めることと、企業経営の意思決定とを混同すると誤ちをおかすことになる。
決断力とは、「問いの正しさ」×決断の「タイミング」×決断の「正しさ」なのである。
従って決断のスピードとは、決断のタイミングを逸しないための一つの要素に過ぎないのだ。順を追ってみてみよう。

1.「問いの正しさ」
経営会議においてどのような案件が議題にのぼり、討議されるかという段階で企業間格差がついているのだ。
ドラッカーは『現代の経営』の中で、次のように語っている。「戦略的な意思決定において重要かつ複雑な仕事は、正しい答えを見つけることではない。それは正しい問いを探すことである。間違った問いに対する正しい答えほど、危険とまではいわないまでも、役に立たないものはない。」(中略)「したがって、意思決定において最初の仕事は、本当の問題を見つけ、それを明らかにすることである。この段階では、いくら時間をかけてもかけすぎるということはない。」

2.「決断のタイミング」
食べ物と同じで、決断すべきタイミングにも賞味期限がある。鮮度がみずみずしいうちに決定しなければ、永久にタイミングを失することすらある。また、早ければそれで良いということではないはずだ。適切なタイミングで決定がなされる必要がある。決断すべき最適なタイミングに何かのシグナルがあればありがたいが、それは無理な話だ。決断を伸ばすと何が得られる可能性があるのか、決断を伸ばすと何が得られ、何を失う可能性があるかを問うしかないのだ。つまり、決断に必要な情報が入手できた時や、議論が出尽くしたときには決めるべきである。

3.「決断の正しさ」
決断の正しさは、その結果において証明するしか方法がない。しかし、仮に二者択一の決断の場合、どちらか一方を決めるしかなく、残った一方の結果がどうであったかは知るよしもない。従って自分の決断が正しかったかどうかは判らないものだ。そこで、大切なことは、決断する前の段階で成功と失敗の定義をしておくことである。

外食店で、出店候補地をAにすべきかBにすべきかの決断に迫られたとする。いずれの候補地も社内の出店基準を満たしている。だが、両方を選ぶことは出来ず、二者択一なのだ。この場合、どちらが正解だったかは永久に判らない。選んだ方の物件が社内の基準値をクリアしておれば成功と定義するしかないのだ。

これがプロにおける勝率である。

プロ将棋・・・年間約70の対局で勝率7割で一流
プロ野球・・・年間144試合で勝率6割で優勝
プロ野球の投手・・・バッターに勝率7割5分以上で一流
大相撲横綱の勝率・・・7割5分以上の勝率で一流

経営での決断にも10割はあり得ない。一定の確率で「誤断」がある。しかし、勝負において確率5割以上ということはすごいことである。