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社長の限界? 異議あり

「業績で分かった! 40代が社長の限界」(日経ビジネス7/1号)をご覧になった方も多いかと思う。私はこの特集を読んで違和感を感じた。いや、調査不足ゆえの不快感というべきものかもしれない。

まず、この特集では上場企業を対象にした調査をもとに、社長の年代別の業績を対比させることから始まる。このあたりのデータ攻勢は及第点で、さすが日経と思わせる説得力がある。そのデータをもとに、「旬の社長は30代」という見出しと、「米国に負けない若返りも」としてローソンやセガの40代社長を取材し、若手経営者歓迎ムードを醸し出す。

また、二人のフランス人、日産のゴーン氏と日本代表のトルシエ監督を引き合いに出しながら、しがらみを断ち切ることの大切さを説く。さらにはとどめとして、稲盛・京セラ名誉会長が登場。「我々は退場しよう」と題したインタビューが掲載されている。

「高齢の経営者が集まると必ず健康の話になる。健康が大事なら会社に来るな」というあたりの稲盛語録は迫力満点だ。だが、どうにもこの特集の結論「40代が社長の限界」と言い切るには無理がある。

理由その1:調査対象の問題

調査企業は、株式公開している企業に限っている。それが大きな問題。今回の調査では3594社が調査対象となっているが、それは氷山の一角中のまた一角、日本全体の企業の0.1%程度の“特殊”な企業を調査対象にしている。いまでこそ上場企業は“特殊”な企業ではなくなってきたとは言え、ある程度の財務力や組織力をもった実力ある企業が多く占めている。この特集に限らず、私たちは調査レポートを読むとき、調査の対象がどうなっているのかをよく見ないと、実態を見誤ることがある。

理由その2:根拠薄弱

社長が高齢になるほど業績が悪い・・・統計上そのようなデータが出ているのは理解できる。しかし、だから「40代が社長の限界」と結論付けてもよい、とは思わない。それはまだ、仮説の段階に過ぎないそれを実証していく必要がある。実証するとは、仮説の証拠を集めることだ。証拠とはデータではない。そのデータの根拠になっている原因を調べる必要があるわけだ。

なぜ40才を越すとダメになるのか、なぜ若いと良いのか。その理由を述べなくてはならない。同誌では、若さがなくなると「しがらみができる」「50代で志に殉じるのは困難」などと書かれてはいるが、いずれも不充分な説明だ。20代でしがらみに生きている人もいる。若くても志をもっていない人物がいる。ばっさりと肉体年齢だけで結論づけるにはまだまだ根拠薄弱だ。

理由その3:感情的理由だが・・・愛が足りない

上場企業の社長の平均年齢は59.25才と同誌にある。意外に高齢なので驚いたが、これは非上場企業でもおおむね同じだろう。となると、実質的にはほとんどの社長が退場すべき年齢にあるとも言える。しかし、それはちょっと待ってほしい。第一、非上場企業では、すんなりとバトンタッチできるほど後釜が育っていないではないか。個人保証もしっかりと銀行に入っている。引退できるものならしてみたい、というのも本音の一部なのだ。決して社長業に固執している醜い人たちではない。その所を同誌は理解していない。

それと、団塊の世代を中心に、日本の難局をリードしてきたこれらの世代が、にわかに隠居生活など出来るはずがない。40才を越した志士に、どのような生き方があるのかの逞しい実例も提示し、彼らが引退しやすくするのもこの特集の主力コンテンツたるべきものである。そのあたりの配慮のなさを感じる。

以上、「がんばれ社長!」としては、筆者自身が引退勧告を受けたような個人的悪感情も含めて、日経ビジネス2002.7.1号の特集に、遺憾の意を表明するものである。しかし、週刊誌の特集としては充分な読み応えの「仮説」を提供している点を評価したいと思う。