Rewrite:2014年4月2日(水)
大企業の人事システムを取り入れて悪戦苦闘している中小企業は少なくない。好んで大企業のマネをしたわけではないのだが、書籍やセミナーで紹介されるシステムには大企業のものが多く、その合理的で緻密なシステムにあこがれて、丸ごと導入してしまうのだろうか。
そうした中、自社オリジナルの賃金制度を考案し、社内を活性化させているケースをみることもできる。
置き薬事業を展開する愛知のある企業では、ちょっとユニークな賃金・評価制度を取り入れているのでご紹介しよう。
この会社では、毎月の営業活動計画書そのものが営業社員の評価表になるのだ。K社長に招かれ、会議に参加した。営業は4つの地域に分けられ、それぞれ2名のスタッフがいるので合計8名の営業社員がいる。社長が営業部長を兼ねているので9人での営業会議だ。
会議の雰囲気はごくふつうのものだが、終了後にちょっと異様な光景をみることになる。
一人ひとりの営業マンが社長と個人面談を行い、契約を交わすのだ。
「営業活動計画書」は契約書を兼ねており、その達成を誓って、署名捺印する。しかもその計画書(契約書)には、あらかじめ評価基準が記載されている。置薬件数と売上高の目標に対してその達成率が問われる。
達成率120%以上 S評価(加点6)
達成率100%以上 A評価(加点3)
達成率90%以上 B評価(加点1)
達成率90%未満 C評価(加点0)
達成率80%未満 D評価(減点1)
さらに
A評価以上が2回続くとボーナス加点3がもらえる。C評価以下が2回続くとペナルティ減点2となる。
前月の「営業成果報告書」には、確定評語記入欄があり、それにS~Dのいずれかのスタンプが押され、社長と本人が署名する。加点(減点)されたポイントは四半期に一度集計され、別途定めた昇給管理表に基づいて昇給もしくは降給が決定される。つまり年に4回の昇給を手にすることも可能ならば、同じく年4回の降給を味わうこともあり得るシステムだ。
K社長にその思想を尋ねた。
「15年ほど前に創業して以来、ずっと賃金制度については悩み続けてきました。セミナーに参加したり、本を買いあさったりしたのですが、ほとんどは大企業の賃金評価制度の焼き直しでした。そこで、5年ほど前に、自前の制度を設計しようと試行錯誤を重ね、いまの制度に行きついたのです。」
「この制度を考案する前にいくつかの理想を掲げました。簡単で誰にも理解でき、業績向上に直結する賃金システムをつくるための理想条件です。それは次のようなものでした」
1.「評価表」を作らない、使わない
2.社員を等級別に分けない(分ける意味がない)
3.賃金テーブルは作らない(あっても使えない)
4.賃金改定は年に一回とは限らない(事務的な都合にすぎない)
5.賞与と退職金は払わない(それを義務づけている法律はない)
6.賞与の替わりに利益分配制度を作る。これは予定利益を上回る金額のχ%を分配金と社員研修旅行(年二回)で配分するも の。
7.退職金制度はない(それにかわる社員財産形成制度を作った)
以前は年に二回、社長が自宅に持ち帰って社員全員の査定をしていたという。人事部をつくるほどの規模ではないので、社長が人事部長も兼ねていた。そんなある年、大手銀行を定年退職された人材を採用し、総務部長に任命した。社長と総務部長が二人三脚で一年かけて作ったのが今の人事システムだという。そして、事務スタッフの評価システムもまもなく完成するとのこと。
これがベストと言える賃金・評価制度は外部に存在しない。自前で作ることをおすすめしたい。外部の協力を借りるのも悪くはないが、まずその第一歩は、K社長が最初にやったように、理想とする制度の条件を箇条書きしてみることから始めよう。