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続・Y常務の懊悩

続・Y常務の懊悩

前の記事のつづき。

親が子をおもい、子が親をおもう。それは本能であり自然の摂理ともいえる。
しかし肉親の場合、何かをきっかけに相手のことが嫌になると、一転して「憎さ百倍」となる。それが「確執」にまで発展するとそれ以降は正常なコミュニケーションができなくなってしまう。

●関西のY常務(45)の場合もそれに近い。現社長(母親)が「ずっと私が社長をやる。一人息子の長男(Y常務)への事業承継は考えない」と断言するまでになってしまった。このままでは彼は「飼い殺し」である。

●自分の家族を守るためにもこのまま親の会社にいるわけにはいかない、とY常務は思い始めた。
後継者として親から期待されたので入社したのに、もはや期待されなくなったわけだから、退職やむなしというところだろう。

●「武沢さん、どう思われますか?」
そう聞かれた私だが、両親の考えや真意をたしかめてみない限り迂闊なことは言えない。
言えることはただひとつ「一時的な感情で行動してはならない」ということだ。縁を切る前に、新しい関係に移行するという選択肢もある。

●たとえば新会社を設立すること。自分の会社を起ち上げ、代表取締役になるのだ。親の会社とシナジーを生みそうな事業であれば最高だ。
事業が軌道に乗れば、しかるべきタイミングで親の会社をM&Aすることだって可能になる。

●「絵に描いた餅になりませんかね?」とY常務。助言を求めておきながら、その助言に対して「絵に描いた餅」とは失敬な、と思いながらも私は冷静に意見を述べた。

●いったいこの計画のどこが絵に描いた餅だというのか。子が親の会社をM&Aするケースは枚挙に暇がない。実例をあげろというのなら、幾らだって申し上げることができる。実際にそのときには名古屋の元印刷会社のM社長のお話しをした。

●「韓信の股くぐり」のエピソードもお話しした。これは大きな理想を実現するためには小さい喧嘩では進んで負けることも大切だという教えだ。
中国・前漢の武将・韓信(かんしん)は、若いころ無頼の男にけんかを売られたが、じっとこらえにこらえて相手の股(また)をくぐり、許しを請うたことがある。後に漢の高祖を助けて天下統一の大事業を成し遂げた韓信だが、もしこのとき血気さかんに無頼漢と喧嘩していたら、勝っても負けても後の大事業にはつながらなかっただろう。

●将来の大望があれば、目の前にある屈辱や不条理にも平然と耐えられる。仮に将来に大望がなければ、いかなる不条理も許せなくなる
つまり、自分に大望があるかないかで今日の決断が変わるわけだ。

●また本当に良い経営者になるためには、確執を解消していく努力を放棄してはならない。少なくとも確執が深まるままにしておくことは成長する機会を棒に振る。
コミュニケーション力倍増のためにも、親との確執を試金石ととらえ、事態改善にむけてねばり強く、そして誠実に取り組もう。

●帰り際、「名古屋に来てほんとうに良かったです」というY常務の言葉に私も救われる思いがした。しかしY常務にとって本当に大変なのはこれからだ。

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