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バンテリンドームと新幹線でみた悲劇

バンテリンドームと新幹線でみた悲劇

●球春到来。間もなくWBCがはじまり、そのあと春のセンバツ高校野球、そしてプロ野球が開幕する。
私もすでに3/31(金)の東京ドーム巨人開幕戦のチケットを入手済みだ。

●この春からプロ野球の声出し応援が許可されることになった。球場全体にあの声援がもどってくるわけで、選手にも一段と熱いプレーを期待したい。

●昨年夏、バンテリンドームで中日vs巨人戦を観たときのことである。
声出し禁止ゆえのトラブルに遭遇してしまった。

劣勢だった中日ドラゴンズが終盤にきて一打同点のチャンスを掴んだ。
巨人投手に抑え込まれ、中日ファンもストレスが溜まっていたのだろう。
初めてつかんだチャンスらしいチャンスに私の斜め前にいた若者二人組のひとりが
声援を送った。

「岡林ぃ~、ここで一発頼むぞ!」

●場内が静かだったので岡林選手に聞こえたようである。一瞬、観客席のほうを向いた。
すると、連れの若者も調子に乗ったのかさらに大きな声援を送った。

「(巨人の投手)山崎はビビッとるぞー!」

おそらくこの声も山崎投手に届いたと思われる。

その瞬間だった。
私の右後方にいたスーツ姿の初老の紳士が雷のような大声で二人を注意した。

「そこの二人、静かにしなさい!」

多くの人が紳士を振りかえった。「よく言ってくれた」という顔と
「せっかくのチャンスなんだから許してやれよ」という顔が混じっていた。
紳士の気迫に圧倒され、二人の若者は一瞬首をすくめるような仕草をして静かになった。
だが、そこで紳士の方も調子に乗ってしまったようだ。若者二人への攻撃をさらに続けたのだ。

「こっちだって声を出したいのに我慢して無言で応援しとるんや。いい気になってるんじゃない。二度と声を出すな。いいか!声出しなしのルールが守れんのなら周囲に迷惑になるだけや。今度出したら警備員を呼ぶぞ」

●(ひと言多いな)私がそう思ったその瞬間、
若者の一人が立ち上がり老紳士に向かって歩きだした。相方が止めなければ暴力沙汰になっていたかもしれない。
ここは三塁側内野席。本来は巨人ファンの応援席だが、そんなことはお構いなしのファンがいるとこうしたもめ事は起こる。

●新幹線のなかでもトラブルに遭遇した。

ある日、東京で仕事を終えて名古屋にもどる新幹線の車内でのこと
私が席につこうとすると、右前方に先に入っていた4人家族が座席を回転させボックスシート状態にしていた。コロナ禍にあって座席を回転させて向かい合うのはご遠慮くださいという車内放送をきくが、この家族は大丈夫なのだろうかとすこし心配になった。

●私くらいの年齢の父親と30代くらいの娘とその妹、それに5歳くらいの子どもの四人連れだった。とても静かにしているので、私も景色を見ながら弁当を食べ始めた。

●すると車掌が入ってきてその家族に声をかけている。会話内容は聞き取れなかったが、すこしもめているようだった。断片的に聞こえてきた声から想像するとこんな会話だった。

車掌:座席の回転はご遠慮いただいているので、ご協力ください
父親:行きの新幹線では許していただけたし、我々も会話は極力控
   ているのでこのまま大阪まで行かせてください
車掌:向き合うとどうしても会話がはずんでしまいますので、皆さ
   にご遠慮願っています
父親:向き合っても向き合わなくても会話するときには会話します

(1~2分やりとりがつづく)

父親:めったにない親子旅行なんですからいいじゃないですか
車掌:実は迷惑だとおっしゃるほかのお客様もお見えでして・・・
父親:迷惑とおっしゃるお客さんがいらっしゃるのですか。わかり
   した。それでは座席はもとにもどします

●父親が折れた。
その後、家族四人はめいめい無言で駅弁を食べていた。その姿が何だか気の毒にみえたが、車掌の対応が間違っていたとも思えない。

バンテリンドームの二人の若者もきっと好青年なのだろう。彼らを叱った老紳士もおそらく立派な紳士なのだろう。車掌も職務に忠実だったし、親子旅を満喫した四人組も善良な市民なのだと思う。

しかし、そこにコロナウィルスが入ることで、真っ二つに対立する関係になってしまった。

そんなウィルスも5月から5類に移行され、対策も緩和される。
真剣に声出し応援しあえばよいし、家族4人が向かい合ってお弁当を食べられる日だって間もなく来る。もうあともどりしたくない。