人事労務組織

役職を乱発するのはいいが・・・

世の中には役職を乱発している会社があることは知っているが、実際に知っている名古屋のA社は新入社員全員が「課長」の肩書きをもらう。
しかも翌年には自動的に「部長」に昇格する。
社内で部長、課長と役職で呼んでも誰のことかわからないので互いをさんづけで呼びあうことにしている。
事務機器など法人相手の営業会社なので、名刺に重みを持たせる意味もあるのだろう。
だが経営者はその弊害も考えておく必要がありそうだ。

行きつけの床屋の大将も役職者だらけの床屋で働いていたと聞かされ驚いた。
「床屋が役職だらけってどういうこと?」
大将が聞かせてくれたのがこんな話。

専門学校を卒業して名古屋の人気理髪店に入社したところ、初日の朝礼で名刺を手渡された。
それにはなんと「店長」の肩書きがある
「店長めざしてガンバレ」という意味だと理解したが、本気で自分を店長にしてくれるのだとわかって慌てた大将。

だが先輩社員の自己紹介を聞いて合点がいった。
この店は全員が役職者なのだ。
社長の奥さん(70歳)は「副社長」でレジ担当。
「本部長」という無口のベテラン男性は60歳。
「専務」という55歳の女性は「本部長」の奥さんで口は悪いが頭がよくていろんなことを知っている。
「マネージャー」という40歳の女性は店内でただひとりパソコンができてみんなから頼りにされている。
その夫の「チーフ」(40歳)は東京でカリスマ美容師をしていた時期があるが、商売が下手で店をたたみ、結婚を機に夫婦で名古屋に来た。
こうしたそうそうたる役職者に囲まれての「店長」なので、それなら務まりそうだと思った大将。

あとでわかったことだが、社長は会社ごっこが好きな人らしい。
役職で呼び合うことで気分は大会社なのかもしれない。
「店長」とは単なる呼称に過ぎず、なにも実権がないことがわかったが、相談すべき相手が誰なのかも分からず困惑した。
特に専務とマネージャーの意見が合わないことが多いのだが、必ずしも専務が上位役職でもないらしい。
その都度多数決で決まるような風変わりな民主主義のせいで店内はいつももめていた。

大将が「店長」に就任したあと何人かの新人が入ってきて「主任」とか「リーダー」といった呼称を与えたが、人間関係に疲れて皆辞めていった。
「店長」に就任して15年目の冬、その床屋は倒産した。役職乱発でいくのも悪くないが、その分だけ指示系統はしっかり決めておかないと現場は混乱する。