コミュニケーションを良くしたい

「社長職は墓場に持ってく」

「うちの社長を辞めさせたいが武沢さんから言ってもらえないか」という依頼。
依頼主は専務で、社長の長女である。
社長はほとんど会社に来ないし、来ても昔のお客さんや銀行と対応する程度。
社員と軽口を叩いて1~2時間で帰って行く。
10年前に大病してから会社を良くしようという気力も感じられなくなった。

この社長は私の助言の多くを受け入れてきて下さったが、こと進退問題となると別だろう。
以前、別の会社でも似たケースがあった。
そのとき私は安請け合いし、社長にこう申し上げた。

「社長、そろそろ専務も50歳。社長の平均年齢を超える年齢になられるので、承継問題に着手されてはいかがですか?」

この社長も長いお付き合いなのでホンネはよくわかる。
私の提案を最後までイヤな顔をせず聞いてくれた。
そして「ありがとうございます」と言ってくれた。
だがそのあと、徐々に感情的になっていった

「事情が許せば私だってそうしたい。だけど今、息子に任せたら会社は一気に求心力を失うでしょう。名前だけの社長に誰が付いていくものですか」

客観的にみてもその通りに思えた。だが私は申し上げた。
「専務の力が社長に追いつくのを待っていてはいつになるか分かりません。立場が人を作るといいます。社長はトップの座から身を引いて背後からコントロールすればいいじゃありませんか」
「どうやって?」
「代表権だけはしばらく保持されればいいのです」
「株は?」
「当面は過半数をもって、徐々に移譲すればいい」

そのとき社長は一瞬だけ迷った。
心が動いたようにみえた。
「考えておきます」とその場を立ち去った。
そして後日、私はびっくりするようなメールを受け取ることになる。

「武沢さん、社長職は墓場に持ってくことにした。目が黒いうちは誰にも渡さん!」

そう書かれていた。感情的になっておられるようだ。
普段はクレバーな経営者ながら、承継問題になると親子の人間関係も絡んできて一筋縄にはいかないことを思い知った。

全国にはこうした問題を抱えておられる方がたくさんおられると思う。
承継を受ける側の選択肢は三つしかない。

1.力業でいく

社長にその意思がない限り「株主総会」または「取締役会」で解任するしかない。
ただ、大抵の場合は株主総会も取締役会も社長が牛耳っていることが多く、難易度は高い。

2.外堀を埋める

社員の過半数、メインバンク、主力取引先、外部顧問などを説得し承継推進に協力してもらう。
「我々がバックアップするから安心して承継を進めてもらいたい」と訴える。

3.会社を去る

承継するつもりがないのならこの会社にいる理由もないので、転職または独立するむね、社長に伝える。

社長は承継問題の全権をもっているわけではない。
承継される側も半分の権利を持っていることを社長に分かってもらうしかない。