男子ゴルフツアーの最終戦は宮里優作がプロ 11年目で初優勝を飾って閉幕した。妹の藍も応援に駆けつけ、「優作はどん底の時でも腐らずにコツコツと努力を続けた。プロとして、兄として尊敬しています」とたたえた。プロの試合で優勝する選手は、技術面や身体面だけでなく、精神面にも秀でたものがある。
かつてジャック・ニクラウスは、「スイングはショットの成功に 1割しか寄与しない」と言った。それほどまでに氏のスイングが完成の域にあったわけだが、それ以上に重要な意味が込められている。それは、スイング前、あるいはスイング中の心の動きが微妙に動作に影響を与えているということだ。むしろ、技が 1でメンタルが 9だというのがニクラウス氏の真意ではなかろうか。緊張、期待と不安、衆人の注目が集まるプレッシャー。心臓の鼓動は高まり、興奮によってドーパミンも分泌している。緊張のアドレナリンのおかげで手がふるえ、身体が硬直する。そうしたなかで、どれだけ平常心を保ちながら、いつも通りのショットができるかという勝負である。
メンタルトレーニング先進国といわれるアメリカでは、アスリートに対するメンタルサポートに力を入れている。メンタル強化用のカウンセリングやセミナー、 DVD、CD などが充実している。なかには、テンションが一気に高まる音楽を背景にして、こんなメッセージが流れてくる。
フットボール選手用の実例。「私は自分のプレイの素晴らしさを知っている。私はチームに欠かせない選手だ。期待に恥じないプレイができる。私は走るのが大好きだ。私はリラックスしている。私はウエイトで身体を鍛える。私はボールを素早くパスする。砂糖やコーヒー、アルコールはとらないし、たばこも吸わない。相手とぶつかりあうのが大好きだ。私の目標はすでに決まっている。私は練習が大好きだ。私の腕はすばらしい。マークした選手を倒すことができる。追え!追え!私の呼吸は深く、乱れない。私は勝利者だ」(『達人のサイエンス』ジョージレナード著、日本教文社 より)
こうしたセリフを覚えておき、プレッシャーがかかった場面でいつでもそれを思い出して口に出せるようにしておくことは、それなりの効果が期待できる。また、特定のジェスチャーをすることで心の集中を高める選手もいる。
こうした本番当日の準備や対策も重要だが、更に大切なことは、普段の練習や生活でメンタルを鍛えていくことである。アメリカのある州立大学では、空手の初心者を集めてこんな実験をした。被験者を 4つのグループに分けて、自宅での過ごし方についてこんな指示をしたのだ。
グループ 1には、筋肉の深いリラクセーション練習をさせた
グループ 2には、目を閉じて空手の動作を心の中でイメージングさせた。
グループ 3には、上記「1」と「2」の両方をさせた。
グループ 4には、自宅では何もさせなかった。
その結果、グループ 3がもっとも上達したという。
『達人のサイエンス』の著者も「二教」という合気道の組み手を教えるとき、次のように教えているという。
まず、つかまれた方の手を、指を広げたまま敵の手首の上にまわす。そして自分の手首は意識せずに、それぞれの指がレーザー光線のように伸びていきながら、それらが敵の顔面を貫いて頭蓋骨の底部に達するようイメージする。次にイメージで伸ばしたそれらの指を、敵の背骨をたどってゆっくり下ろす。
その結果、力を入れた感覚はないのに相手はあっけにとられたかのように、目にも止まらぬ勢いでパッと崩れ落ちる。
筋力だけで技をかけるより、イメージをもとにかけた技の方がはるかに効果的だという。
メンタルの威力を私たちの目標達成に役立てよう。「二教」のレーザー光線のような強そうでかっこいいイメージをつくろう。
目標はあるのに望ましい結果が出ないとしたら、それは、メンタルイメージの欠如である可能性が充分にある。