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ジェフベゾスの成功確率は・・・

●革命を成就させるには三つのタイプの人間が必要と説く司馬遼太郎。
まずコンセプトメイキングする「思想家」、次いでそれを具体的な方法論に落とし込む「戦略家」、最後にそれをオペレーションや仕組みに仕上げる「技術者」。
明治維新をみていても、その順番に必要な人間が現れたからこそ革命が成就したといえる。

●皮肉なことに、思想家や戦略家の多くは革命成就を目にすることなく非業の死を遂げる。したがって革命が成った暁には技術者タイプが生き残り、彼らが元勲として称えられる。本当に称えるべき「思想家」「戦略家」は既に世にない。

●「0を1にする」のが思想家。いまでいえば起業家やスタートアップに求められる仕事だ。
そのあと「1を9にする」のが「戦略家」。いまでいえば担当役員や参謀の仕事だが、腕のいい社長は一人でここまでやる。
最後に「9を10に仕上げる」のが「技術者」の仕事。これもなかなか骨の折れる仕事で、企業でいえば品質やサービスの担当役員がこれにあたる。

●最近アマゾンの本を読んでいたら、いかに同社が新事業立上げの成功率が高いかを次のような年表で物語っていた。データは左から順に立ち上げ年、事業名、事業の内容。

・1998年 IMDb 映画データサービス(1990年設立の会社を買収)
・2005年 アマゾン・プライム(Amazon Prime) 迅速な配送などの各種特典が受けられる有料会員制プログラム
・2005年 フルフィルメント・バイ・アマゾン(FBA)
     仮想商店街「アマゾン・マーケットプレイス」の出店者に対し在庫管理や決済・配送などのインフラを提供するサービス
・2006年 アマゾン・ウェブ・サービス(AWS) クラウドコンピューティングサービス
・2006年 アマゾン・プライム・ビデオ 動画配信サービス
・2006年 アマゾン・フレッシュ プライム会員向け生鮮食品販売
・2007年 アマゾン・ペイ オンライン決済サービス
・2007年 アマゾン・ミュージック 音楽配信サービス
・2007年 キンドル 電子書籍配信サービスと、電子書籍リーダーの販売
・2008年 オーディブル 書籍朗読の音声データを販売(1995年設立の会社を買収)
・2010年 アマゾン・スタジオ テレビ番組や映画を制作する部門
・2011年 アマゾン・ロッカー 宅配ロッカー 配送先に自宅以外のロッカーを指定できるサービス
・2012年 アマゾン・ロボティクス 物流倉庫(フルフィルメント・センター)の作業を自動化・効率化するロボットの製造(2003年設立の「キバ・システムズ」を買収)
・2012年 トゥイッチ ゲーム実況の配信サービス(2011年創業のサービスを買収)
・2014年 ファイアTVスティック ストリーミングメディア端末
・2014年 アレクサ 音声認識人工知能エコー 音声認識人工知能「アレクサ」を搭載したスマートスピーカー
・2015年 アマゾン・ローンチパッド スタートアップ企業の支援プログラム
・2018年 アマゾンゴー レジなしのコンビニエンスストアー
・2019年 エコー・フレーム 音声認識人工知能「アレクサ」に対応した眼鏡
・2019年 アマゾン・スカウト 自動走行の配送用ロボット。テスト運用中
・2019年 アマゾンゴー・グローサリー レジなしの小売店舗
・2020年 アマゾン・ワン 非接触決済サービスなどを提供する手のひら認証システム
・2020年 アマゾン・ダッシュ・カート レジでの決済を不要スマートショッピングカート
<計画中のプロジェクト>
     プライム・エアー ドローンを使った配送システム
     プロジェクト・カイパー 人工衛星を使った通信サービス

●この年表をみているとよくもまぁ、これだけ次々に新事業を成功させられるものだと感心する。だが成功のかげにかくれてたくさんの失敗をしでかしていることも忘れてはならない。
一番有名な失敗は「Fire Phone」という名の3Dスマホを売り出したもののまったく売れず、在庫の山を築いて1年で撤退した。

●失敗を恐れず大胆な発明を尊重する。それがジェフベゾスの価値観だが、Amazonの企業DNAとして息づいているわけだ。GAFAに代表される巨大企業は大なり小なりこのようなスピード感で事業を拡大してきた。
社内には思想家も戦略家も技術者もふんだんにいるのだろう。

●「0を1にする」のが仕事のなかでも一番難易度が高い。だったら、それをやってきたスタートアップを買収すれば手間が省ける。やり過ぎると監視委員会からNGをもらうわけだが、世界中のスタートアップを鵜の目鷹の目でリサーチし、買収相手をさがしているはずだ。

●一般的に新規事業の成功確率は10%以下と言われているが、ジェフベゾスに言わせれば「自分の成功率はせいぜい30%」だそうだ。
彼にとっては「せいぜい30%」なのだが、一般的には10%でも凄いのだ。普通の人の3倍もの成功率があるところに学ぶべきところがある。

●さらに大切なことは打席に立つ回数の多さだ。普通の人が10回挑戦して一つ成功するころにベゾスは100回挑戦して30個成功しているのだ。
その差は30倍に膨れ上がる。

●自社の新事業立上げ年表をつくってみよう。失敗も成功も全部ひっくるめた挑戦の歴史を知り、そこから今後の自社に戦略を考えてみてはいかがだろう。