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映画「WeWork / 470億ドル企業を崩落させた男」を見て

映画「WeWork / 470億ドル企業を崩落させた男」を見て

●コワーキング(CO-WORKING)という言葉を私が初めて聞いたのは2013年頃だったと思う。東北にいる知人がコワーキングオフィスをオープンしたと知らせてくれたのがきっかけだった。その当時のコワーキングオフィスは家賃や事務機器などをシェアすることでコスト削減になることがウリで、起業家やフリーランサーが多く利用していた。

●そんなコワーキングオフィスに対する私のイメージをガラリと変えたのはアメリカ発のWeWork(ウィーワーク)だった。
なんてお洒落で機能的なオフィスなんだ。こんな空間で働いてみたい、と思った。折からの働き方改革ブームにも乗ってWeWorkや他のコワーキングオフィスは互いに切磋琢磨し、一定のポジションを築きあげることに成功した。今後もさらに発展していく業界だろう。

●そういう意味において私は「WeWork」という会社や「WeWork」のサービスにポジティブな印象をもっている。だが、一部の人にとってはそうではないようだ。とりわけWeWork本社で働いていた人達や、一部の投資家は煮え湯を飲まされた。

●新聞でWeWorkの迷走記事は読んではいたが、舞台裏の詳細を知ったのはこのドキュメンタリー映画を見てからだ。
タイトルは『WeWork / 470億ドル企業を崩落させた男』という。
今年9月30日からU-NEXTで独占配信が始まった。

★『WeWork / 470億ドル企業を崩落させた男』(U-NEXT)
 ⇒https://video.unext.jp/title/SID0061933

●「WeWork」の共同創業者のひとりアダム・ニューマンの映画である。
1979年生まれのアダムはイスラエル生まれ。7歳から米国で暮らし始め、2008年にミゲル・マッケルビーとシェアワークスペース事業をたち上げ、2010年に「WeWork」を設立した。

●「“I=私”ではなく“We=私達”という言葉と意識を大事にし、知識、経験、富などすべてを分かち合えば、人々はもっと成功でき幸せになれる」
カルトのようにも受け取ることができそうなアダムの理念は、スタートアップ企業を立ち上げ、成功を目指す若者たちの共感を呼んだ。
次世代のスティーブ・ジョブスやマーク・ザッカーバーグともてはやされたアダム・ニューマンは身長が196cmあり、イケメン。おまけに話術にも長けている。

●そうした彼のカリスマ性が結果として「世界一過大評価された企業」をつくりあげた。子どものころは重度の失読症で3年生まで読み書きができなかったニューマン。それを乗り越えてきた強みをもつ彼にはカリスマ性だけでなくセレブリティも備わっていた。だからこそ周囲が過大評価してしまったのだろう。

●起ち上げ当初は順調にみえた事業なのだが、徐々に実態が暴かれていく。
「利益は出ている」「資金は潤沢にある」「IPOは時間の問題」といった公言とは裏腹に、台所は火の車だったことが判明した。
内部告発も続いた。「マサさん」「アダム」と呼び合っていた孫正義との関係も「これ以上は無理だ」と孫の追加出資拒否にあう。
ついに立場が悪化し、2019年にアダムはCEOを引責辞任させられた。
いまは後任者に経営を託され、経営は順調に回復しているという。

●それでもアダムの退職金は17億ドル(1,870億円)。
彼の理念やビジョンとはいったいなんだったのか。実際に私たちの目の前で起きたこの企業ドキュメントから学ぶべきことは多い。
さて、この映画を見終わったわけだが、いまだに解決しない疑問が残っている。それは次の四つだ。

1.どうしてWeWorkはテクノロジー企業であることを標榜し、不動産会社と言われることを忌み嫌ったのか。

2.創業時のYahooやアリババに投資してきた孫正義という目利きの達人が、利益実態の伴わない会社に何度も巨額投資してしまったのはなぜか。孫さんは「私がばかでした」と語っているが、どこをどう見誤ったのか。

3.サマーキャンプなどの恒例社内行事でカルト的イベントがくり返し開催されながらも多くの優秀な社員が参加し続けたのはなぜか。

4.17億ドル(1870億円)もの退職金をもらって引責辞任したCEOが、その後もWeWorkで経営権のない会長職にとどまったのはなぜか。

●日本のWeWorkで働く人たちへ。
この映画で私の「WeWork」へのイメージがネガティブになったのではなく、むしろ身近になった。そういう意味ではこの映画を恐れることはない。最高の宣伝だと思えばよい。