1本の糸なら子供でも簡単に手でちぎれるが、それが 10本となると大変だ。それが何百本も集まって撚(よ)りをかけると巨大なタンカーをつなぎとめる太いロープになる。今日一日を 1本の糸とするなら、一年は 365本の糸に、10年は 3650本の太いロープになる。私たちは一日一日の習慣によって形作られているわけだ。
ある日の夕食会でパーソナルコーチをしている女性からこんなことを聞かれた。「もし来年、こんな習慣が身についたら最高だなって思える習慣はありますか?」私は手に持っていたワイングラスを彼女の顔に近づけながら、「これを減らせたら最高です」とお答えした。以下、そのときのやりとり。
女性:武沢さんにとってお酒を減らすとなぜ良いのですか?
武沢:まず身体にやさしい。それに、食後の読書だって問題ない
女性:週に何回ぐらい召し上がりますか?
武沢:一年 365日飲む
女性:それを何日にしたいのですか?
武沢:せめて半分ぐらいにはしたい
女性:それは武沢さんにとってどの程度の難易度ですか?
武沢:猛烈に難しいと思う。だって毎日飲んでるのだから
女性:かなりお好きなんですね
武沢:昔はそうでもなかったんだが。40を過ぎてからこうなった
女性:最近飲まなかった日はいつだったか思い出せますか?
武沢:う~ん、あ、そういえば二度入院したが、その時は飲んでない
女性:今年ですか?
武沢:そう、夏と秋
女性:何日ぐらい入院されましたか?
武沢:一週間の入院を二度した。なので合計二週間は飲んでない
女性:入院中はなぜ飲まなかったのですか?
武沢:それがルールだし、どこにも売ってない
女性:ということは入院以外の日でもできるということですか?
武沢:たしかにそういうことだね
女性:どういうルールや状況を作れば飲まない日を作れますか?
武沢:週末だけ飲んで良い。あとはノンアルコールドリンクにする
顔には出さなかったが、私はその時ハッとさせられていた。二度の入院中は、歯の腫れや痛み、全身麻酔に対する不安、刺しっぱなしの点滴の針など、相部屋の人への気づかいなど、不慣れなことだらけでお酒のことなど完全に忘れていた。だから一週間も酒を断っていたのに欲しいとすら思わなかったことを思い出したのだ。夕食の時には飲む、それが正常時において自動的に行われるようになっているのが現状だ。これこそ一日一日の「習慣」である。
女性コーチが私に聞いた「こんな習慣が身についたら最高だなって思える習慣」のことをその後も何度か考えてみた。
・お酒を半分に減らし読書する時間を増やす
・今のジム通い頻度を守り、一日一食を継続して鍛え上げた体にする
・一年間目標を見つづけ、誘惑に負ける日を作らないようにしたい
素晴らしい自分とダメな自分が誰にでもあるというが、どちらの自分がたくさん出ているかが勝負。そのためには、素晴らしい自分が出やすい状況を作ってあげる必要があるわけで、自己を律し、生活を律することがその前提条件になると思う。そうしたら、素晴らしい自分が覚醒してバージョンアップし、今まで一度も見たことがないような「究極の自分」が現れてくるかもしれない。