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K工場とスキルマトリックス

K工場とスキルマトリックス

●ジグソーパズル好きの息子があるとき3000ピースに挑戦していた。
私もすこし手伝ったが、最後の最後になってピースが足りなかったらどうするのだろうと思いながら作業した記憶がある。

●オリジナルのジグソーパズルをつくる場合、完成写真を厚紙に貼り、ピース数に応じて裁断する。
したがってピースが足りないといった事故は本来なら起こりえないのだが、ときどき紛失などしてメーカーにピースの請求が届くそうだ。

●企業の組織づくりはどうだろうか。
理想とする完成写真を決め、それをいくつかのピースにカットし、欠けたピースが存在しない組織作りをしているだろうか?
普通、そのような組織づくりはしない。
いぜい、営業と製造と管理に分ける程度の従来型組織作りをする程度だろう。

●昔、あるメーカーの経営計画づくりをお手伝いしていたときのこと。
取締役工場長のKさんからモノ作りに掛ける熱い思いと、製造ノウハウの確かさ、数百名の工場スタッフ全員のことを知り尽くしている熱心さにいつも感心させられていた。
工場のどこに何が置いてあるか、どこの箇所がいま汚れているかまで知っておられて舌を巻いたものだ

●当時、K工場長は63歳。あと2年で定年だった。
私がオブザーバー参加した経営計画プロジェクトには社長と専務のほかに営業担当役員、開発担当役員、人事担当役員、財務担当役員、それにK工場長が出席した。

●ところがK工場長はプロジェクト会議ではほとんど発言しない。
それぞれの担当役員がいるので遠慮しているのかと思った私は、ときどきK工場長を指名して発言を求めた。
そうしたことが何度かあって、私はハッとした。
「まさか!」とは思ったが、そんなことがあるはずはない。
入社してからその日まで、モノ作りや工場管理の勉強だけを行って、営業も開発も人事も財務も勉強せずにやってきたのだろうか。
そのまま定年を迎えようとされているのだろうか?という「まさか!」だった。
その「まさか!」は的中していた。

●入社して40年も会社にいれば営業や数字の話は避けて通れないはず。
多少なりとも自然に強くなるはずだが、K工場長の場合は完全に避けて通ってきたようだ。
製造に強いという突出した強みがあるから、周囲がK工場長の弱点については大目にみてきたようでもある。

●部下には「多能工になれ」と訴えながら、ご自身はそうなろうとしなかったのはなぜか。
おそらくモノ作りの世界の奥が深くて、他のテーマに興味も時間も失いたくなかったのだろう。
果たしてこのメーカーの社長は、K工場長のような人材を意図してつくったのか、それとも無作為でそうなったのか、聞く機会がつくれないままコンサル契約を終えた。

●一人の人間のなかにジグソーパズルの完成写真が必要だ。
同様に、企業の組織にも完成写真が必要だ。
欠けたピースが存在しないことを前もって確認しよう。

●「スキルマトリックス」づくりが上場企業でも話題になっている
ヒト・モノ・カネ・仕入れ・生産・販売・情報・時間といった従来型経営リソースに加えて、DX、SDGs、脱炭素、国際戦略などの新しい経営リソースも必要になっている。
そうした横軸の下に、縦軸に担当役員や経営幹部の名前を入れてみよう。
それぞれの人材がどの分野に強みをもつのかを「〇」を入れることでジグソーパズルが完成する。
もし欠けたピースがあったらすぐに補強しよう。
もしそれを放置すれば、会社全体がK工場長のような存在になってしまうことを肝に銘じておこう。