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勝って当然の「鍛錬」

Rewrite:2014年3月27日(木)

「コッテージ・チーズを洗う」という表現をつかったのは『ビジョナリーカンパニー2 飛躍の法則』の著者・ジム・コリンズ。私はこのエピソードが好きである。ハワイの鉄人レースで六回優勝したトライアスロンの世界的なスター選手、デーブ・スコットの逸話である。

スコットは、毎日の練習で平均して自転車で百二十キロ、水泳で二万メートル、長距離走で二十七キロを一日も欠かさずこなしていた。どれだけ食べても太ることはない。スコットは脂肪分が少なく、炭水化物が多い食事をとれば、さらに能力が高まると確信しており、毎日の練習で少なくとも五千カロリーを消費していながらもコッテージ・チーズは表面を洗って食べた。余分な脂肪分を少しでも取り除こうというわけだ。

そうしなければ太るわけではない。ましてやそれで勝てるわけでもない。だが、コッテージ・チーズを洗って食べるという小さな努力によって自分の力がさらに少しでも強まるはずだと本人が確信していたことに意味がある。

著者いわく「自転車で駆け抜けているときや走っているとき、毎日コッテージ・チーズを洗ってきたことを思えば、これぐらいはたいしたことではないと考えているのではないだろうか」というわけだ。私たちにとって「コッテージ・チーズを洗う」に相当することは何だろう。

『究極の鍛錬』(ジョフ・コルヴァン著、サンマーク出版)には、天才アメフト選手 ジェリー・ライスが紹介されている。彼はミシシッピ州の小さな町に生まれ育った。今でこそライス選手はフットボールファンなら誰でも知っているような NFL史上最高のレシーバーである。専門家の中にはポジションに関係なくライス選手が最高の選手にちがいないと言い切る人までいる。

学生時代はそれほど注目される選手ではなかったライス選手がプロ入りしてなぜ大化けしたか?『究極の鍛錬』には、ライス流の鍛錬法が載っている。以下抜粋。
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チームの練習ではライスは張り切り屋で有名だった。多くのレシーバーはパスを受けたあとクオーターバックのところにゆっくり戻ってくるが、ライスの場合必ず走って戻った。そして、他のチームメンバーが家に帰ったあとでもいつも遅くまで練習を続けた。とくに注目に値するのは、オフシーズンに週六日のトレーニングを行うことだ。ライスはこうした訓練を完全に一人で行っている。午前中は心肺機能強化のため丘陵を五マイルほど走り、もっとも傾斜のきつい四〇メートル
の距離では十回全力疾走を行っていたと報じられている。午後には、同様に激しいウエートトレーニングを行った。ライスのこの訓練は NFLリーグでももっとも厳しいものとして伝説のようになり、ときには他の選手たちがライスはいったいどんな練習をしているのか知ろうと参加することもあった。しかし、一日のメニューが終わる前に気分が悪くなる選手もいたほどだった。

ときにはフォーティナイナーズのチームメンバーが手紙を書いて、ライスの訓練を教えてくれと頼むこともあった。しかし、トレーナーはライスのまねをしてケガでもされては困ると考え、その情報はけっして教えなかった。
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いかがだろう。圧倒的な練習ぶりがうかがえる。量だけでなく質もすごい。ふたたび抜粋。
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ライスはすべてにおいてうまくなる必要はなく、いくつかのことをこなすだけでよかった。ライスは正確なパターンで走らなければならなかった。具体的にいうと、ライスはときには二、三人のディフェンダーをかわさなければならなかった。またボールを取るために高くジャンプをしなくてはならなかった。ボールをライスから引き離そうとやってくる相手チームの選手を力ずくですり抜け、タックルに向かってくる連中を振り切って走らなければならなかった。そして、NFLリーグでもっとも速いワイドレシーバーであるということは、あまり重要ではなかった。ライスはレシーバーとしての動きのパターンの正確さで有名になったからだ。ウエートトレーニングはライスに莫大な力を与えた。丘陵の小道を走ったことで、相手に自分の体の動きを事前に察知されずに急に方向を変える身体コントロールを身につけることができるようになった。上り坂を使った疾走練習で爆発的な加速力を身につけた。スピードに重点をおく選手たちが通常集中しないような持続性のトレーニングのおかげで、最終第四クオーター(六十分の試合の最後の十五分間)でライスは一段と有利になった。最終クオーターで敵陣の選手が疲れきっているにもかかわらず、ライスはあたかも試合開始後まだ一分しかたっていないかのように元気に見えるのだった。ライスはいつもそうやって試合を終えた。
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そして、多くの選手が 30前後で引退するなか、ライスは 42歳まで現役であり続けた。彼の前にも後にもこれほどのタフガイはいない。

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