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個の時代は個性が売れる

個の時代は個性が売れる

●今から思えば信じられないことだが、40年ほど前にTシャツブーム、トレーナーブームが起きたとき、Tシャツやトレーナーであれば何でも売れた。
当時スポーツ用品店で店長をしていた私は、「Tシャツ売ってますか」とか「トレーナーください」と連日お客に言われた。
ブランドや色、デザインはなんでもよい。
あればいいという「品種充足の時代」だった。

●その後、特定のブランドや特定のデザイン、カラーが人気になった。
それから外れたものは見向きもされなくなった。
「アディダスの靴ありますか?」「ナイキのポロシャツください」「ジェリーのダウンジャケット売ってますか?」
品種ではなく、品目が売れる時代になった。

●その後、ブランドにこだわらない賢い消費者が増えた。
無印良品に代表されるようなブランド名がどこにも見当たらないノーブランドでありながら、品質はしっかりしているモノが売れた。
品目ではなく、品質やスタイルが売れる時代になった。

●最近はネットやテレビでお気に入りの店や個人、品物をみつけだし、その人が作っているもの、あるいは、その人が推薦しているものを買うようになった。
個性が売れる時代である。

●作り手は「MAS」(大量、大衆)を相手にはできなくなった。
すでに「MAS」は存在しない。そうなると「個」を狙うしかない。
いままで「MAS」だけを相手にモノづくりしたり、「MAS」だけを相手にマーケティングしてきた企業は困り果てている。
やり方がわからないまま、倒産していった会社も少なくない。

●その点、最初から「MAS」を相手にしてこなかった中小企業は強いが、「MAS」を相手に大企業の下請けとして仕事をしてきた中小企業は苦しんでいる。
事業を再構築する必要があるり、大企業に依存せず自らマーケティングするスキルが求められている。

●歴史小説家の司馬遼太郎は、「精神体質」という妙なことばをつかって自らのデビュー当時のことをつぎのように物語っている。

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おかしなことですけれども、小説好きの少年期を送っていながら、好きな作家や熟読した作品というものがありませんでした。
ある時、開きなおってしまって、好きな作家があれば小説などという面倒なものを書かなくても読み手にまわればいいので、わざわざ小説を書くのは、自分が最初の読者になるためのものだ、小説を書く目的はそれだけに尽きる、とおもうようになりました。
このことは、いまでも変わりません。
自分が読みたいものを書く、つまり自分に似た精神体質の人が、一億人の日本語人口のなかに二、三千人はいるだろう、
自分およびその人たちを読者にしていけばいい、それ以外の読者を考えない、と思い、そこからハミ出すまいとおもっています。
もっとも、べつに道楽がありませんからね、小説を書くことが趣味だとおもうように自分に言いきかせていました。」
『司馬遼太郎の世界』(文藝春秋編)
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●この司馬の考え方はあらゆるビジネスに当てはまる。
自分が読みたいものを書く、というくだりを飲食なら自分が食べたいものを作る、になる。
ものづくりやサービスであれば、自分が使いたいものを作る、と同じこと。
自分によく似た気質や嗜好をもった人が1億のうち何千人か何万人はいるだろう。
そこをターゲットにビジネスすればよいわけだ。

●幸い、インターネットというすごいインフラがある。
20年前まではホームページとメルマガぐらいしかなかったが、2000年代に入ってからは、Twitter、YouTube、Podcast、Facebook、TikTok、Clubhouseなど、便利なサービスも増えた。
スマホ、タブレット、VR、Apple Watch、といった優れた端末も普及した。
あとはあなたの出番。
活字でもイラストでも音声でも映像でも、あなたにふさわしい方法で国内外に向けて発信しよう。
ネットだから結果はすぐでる。

●反応がないのであれば、発信力を疑うより発信しているものにニーズがないと考えるべきだろう。
市場が敏感に反応するまで売り物に磨きをかけていこう。

個の時代は個性が売れる。
つまり、個の時代は個性がないと売れない。
まずは全国にいる1,000人に届けよう。