めんどくさ「レギュラー1500円分」だと!
●知人のK氏が語ってくれた体験談には考えさせられるものがあった。
彼が大学生のころ、二つのアルバイトをかけ持ちしていた。
当時ヤンキーまがいだったK氏は、友人のすすめで東京ディズニーランド(以下「TDL」)の面接を受けた。最初のうちは「金髪で受かるのかよ。それにオレやだよ、あんなきもちわるいとこ」と断っていた。
だが友人もそこで働きだしてからイキイキしているのが気になっていた。
●面接に合格し茶髪を黒く染めたKさんはTDLで働く2万人のスタッフの一人になった。トレーニングを受け、仕事をおぼえるうちに楽しくなり、やがて正社員になれた。
その後、「ジャングル・クルーズ」のガイド役をまかされたことで覚醒する。
●ディズニーランドのマニュアルはあるが、マニュアル通りで事が運ぶことは半分もない。乗船客の顔ぶれや性格などを瞬時に判断し、アドリブを入れることで一体感や臨場感が生まれる。
最後には笑いと感動の拍手がわき起こる。そうした一期一会のクルーズ体験に生きがいを感じだしたKさんは、同僚も賞賛するほどのパフォーマンスをするキャストになり、ついにある年の年間MVPキャストに輝いたのだ。
●そんなKさんが正社員になる前のこと、もうひとつ別のアルバイトをしていた。近所のガソリンスタンドである。シフトの都合でTDLで働けないときのサブだった。
ガソリンスタンドにもTDL並に接客教育が徹底されているところもあるが、Kさんが働いていたスタンドは違っていた。恵まれた立地にあるためお客はひっきりなしにやってくる。最低の接客でも売上げが落ちることはなかったし、上司の指導も相当緩かった。
●KさんがTDLの園内で見せる最高の笑顔とハキハキした応対は必要なかった。「へい、いらっしゃい」のトーンすら2オクターブ低い。
「レギュラー満タン」という注文なら簡単なのに、たまに「レギュラー1500円分」とややこしい注文をする客がいる。そのときは「はい1500円分ね」と復唱するものの、露骨に面倒くさそうな顔をしてみせた。笑顔を見せるはずはなく、動作のスピードだってTDLの半分以下になっていた。
●私にむかって「人間って正直ですよね」と笑って話すKさん。
職場のビジョンや誇り、仕事に求められる基準、同僚たちの仕事ぶり、お客の期待と評価、それらがすべて揃っていたTDL。一方、何も揃っていなかった近所のスタンド。
我ながら同じ人間とは思えないほど仕事ぶりが変わってしまうことに気づいたKさん。
どうせやるならTDLの方が断然楽しい。彼はいま、TDLのような職場作りをめざした研修トレーニングやコンサルティングの仕事をしている。
●実はKさんの話を聞く前に私も同様の体験をしていた。私自身のことではなく、マクドナルドで働くやり手女性のことである。
明日につづく。