ここの寿司は最高に美味いけど・・・
●2時間のZoomセミナーで自分の役割を全うした私は、真冬なのに汗ば
んでいた。完全にやり尽くした。
あとは主催者に進行を任せ、私はカメラ映像をいったんオフにしてト
イレに立った。
乾いたノドを潤すため冷蔵庫から冷えたペリエも取り出してきた。
残り時間は10分ほど。
受講者の感想を聞いたり、事務的なお知らせなどで流れていくクールダウンのような時間だ。
●そういえば「今夜はイタリアンね」とかみさんが言っていた。
きっと私の好物のグラタン春巻きだろう。
コンビニで冷えたスパークリングでも買って帰ろう。
そんなことを考えていたら、受講者から質問が飛んだ。
●税金対策に関するテクニカルな質問だった。
ていねいに説明すれば10分はかかる。
いまからその話を始めてもいいが他の受講者が興味があるだろうか?
それに、セミナーをやり切ったあとの私はパスタとワインに気持ちが移っていた。
「そういった個別のご相談は改めて主催者あてにメールでお願いします。それにレスしますから」とそっけなく告げて質問を打ち切った。
●その日のZoomセミナーは定刻より早く終わった。
あれから3カ月経つが質問メールはいまだに来ない。
セミナーアンケートは上々だったそうだが、最後の場面だけ気まずかった。
●最近になって私は『ピーク・エンドの法則』を思い出した。
人は「ピーク」(絶頂)と「エンド」(終わり)の二箇所の印象だけが強く残るという法則だ。
私はパスタに負けて「エンド」で不誠実だったかもしれない。
●『ピーク・エンドの法則』についてWikipediaでこんな解説を見つけた。
二つのグループに同じ不快音を聞かせた。
だがひとつのグループには少しだけ不快さを和らげた音を最後に聞かせた。
その結果、そちらのグループの方が不快さ度合いの印象が低かったというのだ。
「エンド」の差がはっきり出たわけだ。
「終わりよければすべて良し」というが、終わりさえよければすべて良いわけではない。
やっぱり中味のピークの高さも必要なのだ。
●私はよくタクシーを使う。どこからどこまで乗ればだいたい幾らというのが分かるので安心して乗っていられる。
だが、以前はメーターが一つ上がるたびに心臓がドキドキし、メーターばかり見ていた。
●タクシーを降りる直前にメーターが上がったりしようものなら、ボッタクリにでもあった気分で不愉快だった。
当時の私にとって、タクシーは「エンド」が最悪な乗り物だったといえる。
今は相場が分かるのでメーターをまったく気にしないし、降りる直前にメーターが上がっても、日本経済を回している気分で愉快だ。
●飲食店でいえば、回転寿司が流行って従来の寿司屋が流行らない。
キャバクラが流行って従来のクラブが流行らない。
それらは料金後払いのせいだし、おまけに値段の概算も読めないからだと思う。
●せっかくうまい寿司をたべていながら、「これって2万円いくよな」「いや、3万円いっちゃうか」「ウニを食べたいけど注文はやめておこう」などと考えていたらまずくなる。
回転寿司ならそんな気分になることはない。
●クラブに通い慣れているお客は相場を知っているので安心してクラブで楽しめる。
だが、夜の社交界に不慣れな人は明朗会計のキャバクラに行きたがる。
クラブでも前金のお店があるそうだが、『ピーク・エンドの法則』でいえばそちらの方が理にかなっているはずだ。
今一度『ピーク・エンドの法則』であなたのビジネスを見直してみよう。