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続・二つのポートランド

続・二つのポートランド

●2006年に私がバンクーバーを訪れたとき、ポートランド空港で乗り換えた。
売店でオレゴン州のマークが入った帽子を買い、それをかぶってコーヒーを飲んだ。
ポートランドの記憶といえばその程度で、かなり大きいハブ空港という印象しかない。

●だが実際は、全米ナンバーワン空港に3年連続で選ばれた空港であることを最近知った。
たしかに広い空港ではあったが、レストランの食事がどこも美味しく、買物環境が充実し、地ビールが安く、空港内に敷き詰められたカーペットが人々を安心させている、といった事実は最近まで知らなかった。

●そんなポートランドは最近、「全米で住みたい街No.1」に輝いた。
他にも、「全米で最も環境にやさしい都市」、「全米で最も美味しいレストランが集まる都市」、「ベストデザイン都市」などのランキングでも上位を占める人気都市である。
ナイキの本社もあるし、アディダスの北米本社もある。
スポーツウエアのコロンビアの本社もここだ。
そこまで聞けば俄然、行ってみたい都市としてWish-Listに加えたくなった。

●さて、アメリカの歴史は東海岸から始まっている。
1776年7月4日にアメリカがイギリスから独立したとき、独立宣言はフィラデルフィアで行われた。
その後、一年間だけニューヨークを首都にしていた時期があるが、その後はフィラデルフィアに首都が置かれ、1800年からはワシントンDCが首都である。

●アメリカの歴史は東海岸から。
米国独立の150年前の1620年に「メイフラワー号」に乗ったイギリスのピューリタン(清教徒)がアメリカに渡ってきた。
プリマス(東海岸、マサチューセッツ州)の港だった。
東海岸メイン州にあるポートランドは、州内で一番人口が多く、経済の中心地となる港湾都市だ。

●そうした由緒ある「ポートランド」の地名が、どうして200年後の1800年代に西海岸の都市に付けられることになったか?
実は、西海岸オレゴン州にあるポートランドは「ポートランド市」にすべきか「ボストン市」にすべきか大いにもめたのだ。
オレゴン州のポートランド周辺の土地をもっていた二人の男性は、この未開の土地に名前をつけるにあたり、お互いに故郷の名前を付けたいと譲らなかった。

●ひとりが「ボストン」出身のアサ・ラブジョイ、もうひとりが「ポートランド」(東海岸メイン州)出身のフランシス・ペティグローブ。
決定方法はコイントスに決まった。

●「そんな大事なことをコイントスで?」
と思われると思うが、アメリカでは大統領選挙の候補者選びでも、過半数が取れないときには今もコイントスで決められる。
日本の選挙も最後はくじ引きなので、洋の東西を問わず、最後は運が良い方が勝つという仕組みだ。

●さて、1845年の某日、コイントス対決は行われた。
先に2勝した方が勝つことにした。
勝負は1勝1敗のあとの最終トスにもちこまれた
そこでペティローブが勝ち、その瞬間、オレゴン州の新興都市は「ポートランド」という名前に決まった。
コインが反対であれば、オレゴン州ボストンになっていたわけだ。

●このコイントスに使用された1835年製 1ペニー硬貨は「ポートランド・ペニー」と呼ばれ、今でもポートランド市内の歴史協会博物館に収められている。

歴史と地理は切っても切り離せないわけだが、何よりもまず地名に歴史が秘められていることが多いのだ。