Rewrite:2014年3月26日(水)
アメリカのフリーペーパー「Where」紙によると、同国でのピザ消費量は、年間で110億枚を超えるそうだ。人口2億7000万人で割れば、一人あたり年間41枚を食べることになる。これは本場イタリアを抜いて世界最大である。その大きな原動力に宅配ピザの存在があることを忘れてはならない。
ライバル企業がどこも手がけていない、ピザの宅配という事業をビジネスとして成立させることが出来ないだろうか?トム・モナハンの挑戦が始まった。消費者からみれば、電話で注文して30分後には熱いピザを食べられることは便利であるに違いない。しかし、それをやって利益を出すためには多くの課題と困難があった。
・注文が集中する昼と夜の要員確保
・注文を受けてからすぐに焼き上げるための調理器具
・配達途中の保温技術
・配達の際の交通手段や安全対策
・・・etc.
いずれも難問だった。こうした難問が多いからこそ、大手のチェーン店は宅配に手を出さないのだ。
「奇襲攻撃をかけるとしたら、相手がやりたがらない分野で攻撃を仕掛けるしかない」とトムモナハンは、試行錯誤をくり返し、一つ一つ難問を解決していく。
一方、トムの宅配ピザ構想に対して、周囲はどう反応したか。
「すき間ビジネスには違いないが、宅配ビジネスがそんなに大きな市場とは思えないね」と、銀行は冷ややかに笑った。大手のピザハットでは、「ピザの宅配ビジネスは検討済みのテーマ。社内で研究させたが、事業として成立するなんて夢物語だね。」と語っている。
このとき、ピザハットはいったい何を「検討」したのだろうか。巨大な金鉱がそこにあったのに……。
海兵隊でたたき込まれた挑戦者魂がトムを前進させ、ついに宅配ピザのビジネスシステムを完成させた。連続してピザを焼き上げるコンベア・オーブン、ピザを宅配中に乗せるためのトレイ、段ボール製の回収不要のピザ箱、保温バック、派手なデザインの制服にスクーター、アルバイトの要員配置計画と独自の給料システムなど、今日の宅配ピザシステムの原型を作り上げたのだ。
なかでも一番難しかったのは、必要な時間に必要な人数を確保する方法であった。余談だが、私のオフィスの近くに新しく宅配ピザ店がオープンした。記念のクーポン券が付いていたので注文しようと電話したら、ずっと留守番電話だ。あきらめて翌日に注文したら今度は誰も出ない。こうしたことがあると、3回目には電話しないものだ。
「ビジネスとして成立しない」と評された宅配ピザ事業は、今日いかに発展したか。
1960年にトムが挑戦を始めたドミノ・ピザは、今や世界60ヶ国に10,000店舗以上をもち、日本国内のドミノピザだけでも250店舗を突破している。ニーズがあってシステムが整備されれば、すき間産業といわれた分野でも巨大なビジネス帝国ができあがることを証明してみせたのだ。
創業者トム・モナハンにとって、劣悪な境遇や、当初の事業での失敗といった不幸そのものが「成功への贈り物」であったに違いない。