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それは「経営理念」といえるか?

その日のセミナーテーマは「経営理念」だった。
・我社は何者か?
・何を目指し、何を大切にする会社なのか?
それらを簡潔に文章表現したものが経営理念であり、それを作るの
目的のセミナーだった。
初めての方でもすぐに作れるように武沢が厳選した「経営理念事例集」
に目を通していただいた。次にマンダラのフォーマットを使って経
理念を成文化する作業時間に移る。

経営理念づくりの段階になると、社長の個性が出るし悩みも出る
昔、名古屋のセミナーでは最前列にいた50歳ぐらいの二代目経営者が
「できました!」と顔をほころばせた。「これでもよいでしょうか?」
と私を手招きされるので、のぞいてみたら
『借金返済!借金返済!借金返済!』
と書かれていた。
「それが経営理念ですか?」と尋ねる私に、「はい、そうです」と
を張る社長。

経営理念には求心力が必要だ。それは社員が聞いて誇りをもてる
のであり、入社希望者やお客さん、取引先が「お近づきになりたい
と近寄ってきてくれるものでありたい。
果たして『借金返済!借金返済!借金返済!』で良いのだろうか?
そんなお話しをしたが、社長はそれが気に入ったようで変える気が
いという。

だが、次のセミナーでお会いした際、経営理念は別のものに変え
れていた。そして借金返済に関する記述はどこにもない。
「プライベートミッション」として役員だけの重点目標にしたそうで、
私も安堵した記憶がある。

その日のセミナーでは「東京一の洋菓子屋になる」を経営理念に
たいがどう思うか?とY社長が質問した。
悪いとは思わない。少なくとも『借金返済!借金返済!借金返済!
よりはかなり良い。だが、「東京一」は経営理念というよりは目標
近い。

「原町一の会社にする。原町一になったら西の京一の会社にする
次は中京区一、京都一にしよう。京都一になったら日本一、日本一
なったら世界一になろう」と稲盛和夫社長(当時)は京セラ設立時
言いつづけたそうだ。
毎日全力で仕事をする集団組織をつくるためには高い目標が欠かせ
いことから、口を酸っぱくして原町一、西の京一、中京区一を言い
けた。やがて名実ともに世界一になった。

だが、京セラの経営理念は別のものである。
「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進
発展に貢献すること」が経営理念で、社是は「敬天愛人」である。
「東京一の洋菓子屋になる」は素晴らしい目標だが、経営理念では
く中間目標にすべきだと私は思う。