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細川たかし、長山洋子、ふたりのビッグショー

名古屋から岡崎までは名鉄特急で30分。徳川家康の聖地・岡崎城へ
は東岡崎駅から歩いて10分ほどである。私は自然豊かなこの街に20代
のころ数年暮らしたことがある。あらためて今みても、いい街だと
う。

昨日、久しぶりに岡崎を訪れた。
「細川たかし・長山洋子、ふたりのビッグショー」が岡崎市民会館
ひらかれたからである。
偶然にもこの会館は私が以前暮らしていた家賃23,000円の古アパート
のすぐ近くだった。すこし早く着いたので、35年前の記憶をたどりな
がら古アパートをさがしてみることにした。

古本屋があったところが税理士事務所になっていたり、日本家屋
豪邸があったところがマンションに建てかわるなど当然の変化はある。
だが、街並みは変わっていない。古アパートの場所ちかくまで難な
たどりついた。アパートの真ん前にあった雀荘はなくなっていた。
となりの古民家も今風の洒落た西洋住宅に変わっていた。

「35年だもの、残ってるわけないか」
そう思った瞬間、見覚えのある4本のプロパンガスボンベと金属製の屋
外階段が目に飛び込んできた。
なんと二階建ての木造マンション『コーポシンエイ』が35年前と変わ
らず建っていた。思わず写メを撮る私。
一瞬にして当時の記憶がよみがえる。ガスボンベの左奥に伸びる細
てせまい通路をいくと、一番奥が私が借りていた部屋だ。
通路には昔のまま洗濯機が置かれている。むろん、私のものではな
が。近所のご主人が洗車しながらこちらを観ていたので長居はでき
かった。

記憶というものは脳にあるものだと思っていたが、一部は土地や
物にも残されるのだろうか。
ふだん思い出さない光景やできごとが『コーポシンエイ』の前でた
さんよみがえった。

感慨にひたりながら市民会館にもどる。
初めてみた細川たかしと長山洋子のふたりコンサートは圧巻のひと言。
現役の歌手ってこんなに歌がうまいんだ。こんなに大声で歌うんだ
と感心しきり。

細川ならではのMCもふるっていた。
「岡崎の皆さん、今日の昼の部、私カンペキだったんですよ。一度
歌詞を間違えずに歌えたんですもの」と笑わせる。
「こんなことは四年に一回しかありませんから。でも夜の部でも引
続き完璧に歌えるようがんばりますから、応援よろしくお願いします」
拍手がわきおこる。1,000席の場内はもちろん満席。

かつて紅白歌合戦や日本レコード大賞などで何度も歌詞まちがい
歌詞とばしをやらかしてきた細川にとって「歌詞なんてどうでもい
んです」となるようだ。

そんなことを言っているからだ。
後半にさしかかって新曲『冬嵐』を披露した。こぶしを握りしめな
ら熱唱する細川。
一番を歌いおえ間奏にはいると「ここまでは完ぺきです」と余裕の
情。だが二番のサビにはいった瞬間、歌がとまった。
苦笑いしながら「アレ、なんだっけ」と小声でつぶやく細川。あき
かに赤面している。一小節やりすごしてからふたたび歌い始めた。

終わってから細川はグチる。
「なんで作詞家は一番、二番、三番と歌詞を変えるのだろうね。同
にすれば絶対間違わないのに」
そのあと「あ、この出来事はよそで言わないでね」と口封じを忘れ
い細川。

そんなお茶目な部分があるものの、歌唱力はお見事というほかない。
「ノドをつかうだけでこんなによく儲かるなんてありがたい商売です」
と言いながらも、細川のノドはだれにも真似できないノドであるこ
を聴衆に印象づけるのも忘れなかった。

2時間のショーはあっという間。
今度はおふくろか家族を連れてきてやりたい。そう思いながら名古
への帰路についた。