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「語源娘」の物語」・・・フィクションです

まだ一輪咲きながら「名古屋城桜まつり」が先週から始まった。
仕事を早めに切り上げて名古屋城に行ってみた。すると、しわがれ
声の口上(こうじょう)が聞こえてきた。
「サァサァ、お立ち会い、ご用とお急ぎでないかたはゆっくりとお
きなさい」
入場チケット売場のすぐ横で露天商がガマの油を売っていたのだ。

「こんなに良く切れる刀で切った切り傷が、このガマの油をひょ
と塗れば、ほら一瞬にして血が止まり、痛みも止まる」
自称・室町京之介と名乗る武士装束のおじさんがパフォーマンスし
いた。

いまどきこんな商売があるのだと遠巻きにみていたら、なんと「
とつちょうだい」と年配のご婦人。つづいて40前後の男性も「これ、
よく効くんでもう1個買い置きしときますわ」と買う。
「市販のクスリじゃだめなのよね」と主婦も2個買う。それにつられた
ように他のお客も買っていくではないか。私もつられて三つ買った
すごい売れ行きだなあと感心しながら私は名古屋城公園の中に入っ
いった。

名古屋城の桜はさくらはまだ2分咲き程度だが、これはこれでまた良
い。
歩きつかれたので休憩しようと思ったら野点(のだて)の店が営業
ているのを発見。抹茶セットが注文した。幸い他にお客はいないので、
すぐに渋めの抹茶と甘納豆が運ばれてきた。

その大学生とおぼしき女性スタッフに声をかけてみた。

「入り口でガマの油が飛ぶように売れてましたよ。これがそうです
すると素っ気ない表情で彼女は言った。
「ええ知ってます。さくら祭りですから」
「え?」
「さくらの語源をご存知ありません?」

私がキョトンとしていると、彼女は「さくら」の語源を話してく
た。
・・・
「さくら」のことを漢字で「偽客」と当て字する場合もあります。
江戸時代の芝居小屋などで、役者に声をかける見物人のなかに「偽
(さくら)」が潜んでいて、派手に景気よく声をかけ、一瞬にして
内から消えるところがパッと咲いてパッと散る桜に似ていることか
そう呼ばれるようになったそうです。(このくだりは本当のようだ
・・・

「そうか、桜まつりとはそういう意味だったのか。勉強になるなぁ。
お、久しぶり、甘納豆か」
抹茶のおともは甘納豆だった。豆自体が甘く煮てあるうえに、砂糖
まぶしてあるからダブルで甘い。それが渋い抹茶とよく合う。
私はいたずら心が芽生え、女性に質問した。
「甘納豆の語源は何ですか?」

「甘納豆の語源?」女性の表情は一変した。「待ってました」と
わんばかりにふたたび語り始めたのだ。

・・・
甘納豆を最初に発明したのは江戸時代末期の日本橋・榮太郎総本舗
んです。初代主人の細田安兵衛は当時安価だった「金時ささげ」を
料に、豆を蜜に漬け込んだ甘い豆菓子を完成させました。
そのネーミングを何にするか思案し、友人に相談したところ、静岡
名物でささげを使った煮豆「浜名納豆」があるから、それをもじっ
「甘名納豆」にしてはどうかというのです。「それだ!」とばかり
安兵衛は「甘名納豆」として発売したのですが、これがとても好評で、
徐々に「甘納豆」として人々に定着し、真似するお店も増えていっ
と聞いております。(これも本当のようだ)
・・・

あまりに詳しいので私がポカーンとしていると女性はいったん裏
引っ込み、何かを手にして戻ってきた。
「余談ですが、こちらにあるのは今も売られている『浜納豆』でして、
浜名納豆のことです。お酒のおつまみにもよく合うと評判ですよ」

「酒に合う」と聞いて私は晩酌のことを思い出し、喉がゴクリと
った。
それが聞こえたのか女性は「よろしければプレゼントします」という。
恐縮しながらも私の手は浜納豆に伸びていた。そして女性にこう尋
た。
「これは、あなたのものですよね?」
「はい。いただきものなのですが、私はお酒を飲みませんし珍味類
実は苦手でして・・・」
「ひょっとして下戸(げこ)?」
「はい。超がつく下戸なんです」

私はまさかと思いながらも「下戸」の語源を聞いてみた。
すると彼女の目がキラリと光り、下戸の語源を語りはじめたのだった。

・・・
下戸とは、律令制時代に戸籍を課税単位で分類しており、「大戸・
戸・中戸・下戸」の四等戸ありました。その階級によって婚礼時の
の量も決まっており…。
・・・

★下戸の語源 → http://ur0.link/eXZw

まいった。語源娘の博識ぶりに舌を巻いて逃げ出そうとする私。

その背中めがけて彼女は「『舌を巻く』の語源はですね・・・」と
いかけてきた。