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アナログ皮膚感覚

Rewrite:2014年3月30日(日)

知人の紹介でプロ相場師にお会いしたことがある。ご自宅の一室にディーリングルーム(投資用の部屋)があり、そこに通された。50代の男性で一切の副収入はなく、相場による利益だけで生計を成り立たせて20年になるという。ネット証券を使っているが、いわゆるデイトレードのような細かい値動きを追いかける投資法ではない。成果の方は年平均で15%~20%ぐらいだそうだ。投資額が仮に5,000万円であれば750万~1000万の利益、投資額が一億なら1,500万~2,000万の利益になる計算だ。

その相場師が「三種の神器」としているものがあるという。この三つがなくては生きていけないほど大切にしているものだそうだ。秘伝の書でも出てくるのかと思いきや、お見せいただいたのは意外なものだった。

まずグラフ用紙。縦1メートルほどの大きなもので、注目している企業の毎日の株価が折線グラフになっている。終値だけを記録した単純なものだが、一ミリ一円と決め、セロテープで継ぎ足しして何十年もの終値がグラフにしてある。それを付けることが早朝の日課だという。
ちなみに取引銘柄は、数社に限定しているのでその数社のグラフだけをボールベンと定規でていねいに書いていく。
コンピュータでも簡単にグラフが表示されるが、この作業だけはデジタルで処理してはいけないという。理由は、皮膚感覚を養うためであるそうだ。

あとは、「場帖(ばちょう)」とよばれる終値だけの一覧表。それに「玉帖(ぎょくちょう)」とよばれる売り買いの記録。この「三種の神器」だけでバブルの荒波を生き抜いてこられた。インターネットを使ってリアルタイム株価をみるようなことは決してしないそうで、新聞の株価欄で前日の終値を調べるだけだという。

それに近いことをしている経営者がいる。三重県にある長田建設(仮名)の長田社長は、社員に対して数字をすべて公開するガラス張り経営をモットーにしている。毎月の試算表の内容はもちろんのこと、5年先までの決算目標までを全社員に公開している。圧巻は、そのビジュアルである。

まず損益計算書。
縦1メートルのグラフ用紙に毎月の損益を棒グラフにしている。月商が約1億円なので1センチは100万円になる。一枚の用紙のなかに、「売上高グラフ」「原価グラフ」「経費グラフ」の三種類が書かれており、毎月一枚、社長自らが手作業で作成しておられるそうだ。
売上高グラフでは、取引先ごとに色分けがされており、一目瞭然で推移もわかる。

「武沢さん、この作業だけに毎月ほぼ一日を費やしますが、創業以来15年間ずっとやり続けてきました。今でも他人やコンピュータにやらせるつもりはありません。これが私流の計器飛行なんですよ」と笑う。

会議室の壁の片側には、直近12か月の損益計算書が、片側には同じく貸借対照表がずらりと並ぶ。会議の途中に全員が席をたってそれらの前に移動し、議論することもしばしばとか。

プロ相場師と長田社長のお話には共通するものがある。アナログに回帰しようなどという単純なものではなく、デジタル処理されたデータをもとに、分析判断するときには、アナログも決してすてたものではないということだろう。