某日夕方、オフィスで仕事をしているとスタッフが私に電話を回
た。
「ネットで調べてお電話下さった女性です。コンサルティングをお
いしたいそうです」という。
電話に出てみると、四国で家具製造を営む株式会社AのA社長だっ
50歳前後の女性である。
「どうされましたか?」と私。
「情報漏洩がひどいんです」という。地元の金融機関や経営者団体
どで経営相談した内容がその日のうちに同業者などに筒抜けになっ
しまう、というのだ。
「だから恐くて地元で相談することはできない。ネットで相談で
る人を探していたら御社が見つかりました」とA社長。
外出の予定があった私はスカイプのアカウントをお伝えし、二日後
ネットで相談に乗るとお伝えした。
二日後、スカイプがつながるやいなや、延々と金融機関批判、同
者批判が続く。その様子から私は「敵が多く、孤独な経営者」であ
ことを予感した。工場はあるが職人がいなくなり、今では仕入れた
具を細々と販売する程度。このままでは先細りだという。
「それでAさんは何をされたいんですか?」と私。
「銀行か公社からお金を借りて家具製造を再開したいのです。職人
近くにいますから、すぐにうちで働いてくれるはずです。何より、
ちの地域で取れる杉や松は家具づくりに適していて加工しやすいの
す」
「決算書と事業計画書をもって銀行か保証協会へ行かれたらどう
すか」と言うと「それをやっているのですが、計画内容がその日の
ちに漏洩して同業者の話題になっているのです」とA社長。
「そんな銀行は訴えたらいい。弁護士にそれは任せて、あなたは別
銀行で金策されてはどうですか」
「それがダメなんです。街中の銀行が情報漏洩するんです。借りる
ら他県かなと思っています」
「他県の銀行に接触したのですね」
「はい、お隣の県の政策金融に電話したら、『ご協力します』と言
てくました」
「それはよかったですね」
「武沢さん、銀行はお金を貸すのが仕事でしょう。それもせずに情
漏洩ばっかりするので金融庁に直訴したんですよ。監督を強化する
と返事をくれました。地元の銀行の怠慢ぶりはひどいもんです」
私はそのとき、この経営者は街の笑いものになっているのではな
かというイヤな予感がした。本人はいたって真剣なのに、銀行や取
先はとうの昔に見放している、そんな構図が頭に思い浮かんでしま
たのだ。
(そんなはずはない。そんな会社があるはずがない)と自分に言い
かせながらA社長に提案した。
「Aさん、一番最新の決算書を私宛てにお送り願えませんか?コ
で結構です。拝見したらすぐにお戻ししますから。それをもとに、
観的かつ率直に御社の可能性について私の意見を申し上げます」
ひょっとして財務内容はバツグンなのだが、社長の人柄が銀行担当
に嫌われているだけかもしれない。そうであればまだ打つ手はある
翌々日、郵便が届いた。
「良い内容であってくれ」
そう願いながら封書を開けた。
<あすに続く>
※A社長の地域・業種などは実話と異なります。