あの人には哲学がある。私にはない。そんな思いをもたれたことは
ないだろうか。
私が40歳でコンサルタントになったころ、初めてお目にかかる経営者
に「あなたの経営理念(哲学でもビジョンでもOK)を1~2分で話して
ください」とお願いしていたことがある。
結局、すぐにやめてしまった。ほとんどの人が要領よく話してくれな
かったからだが、「あなたはどうなの?」と逆質問されて恥をかく事
がしばしばだったからだ。
40を過ぎて哲学すら語れないなんて、と思いつつも何を語ったとこ
ろで借り物に思えた。
その後、42歳になって経営者研修を始めた。理念を教える立場の人間
が理念をもっていないのは失礼だと、付け焼き刃ながら経営理念をつ
くった。それがこちら。
「日本企業の99%、就労者の77%が働く中小企業。我社はその中小企
業を支援するコンサルタント会社として直接的、間接的に日本という
国に貢献することを目指します」
会社紹介のようなふんわりした理念だったが、ないよりはマシだった。
46歳で日刊メルマガを創刊した。
『がんばれ社長!今日のポイント』というタイトルにした。名は体を
あらわすというから会社名も有限会社がんばれ社長に変更し、経営理
念もこの際「がんばれ!社長」にしてしまえと思った。
「がんばれ社長! 日本の元気を社長から。
私たちは社長に元気を発信し、社長が元気になれる経営サービスを提
供します」
という経営理念に変更した。それ以来19年、理念は変えてないし変え
る必要を感じていない。
さて、真正面から質問されると返答に困るような質問というものが
ある。
たとえば、人生とはなにか、生きるとはなにか、命とはなにか、死と
は、家族とは、働くとは、仕事とは、・・・。
これらは答えられなくても支障はないのだが、
経営者が「経営とは何か?」と聞かれて答えに窮するのはマズいと思
うのだ。
経営とは何か、経営者とは何か、会社とは何か、我社が目指すもの
は何か、社員とは何か、社員全員が共有したい考えはなにか・・・etc.
経営哲学をもった経営者とは、哲学めいた質問に答えられる人のこと
をいう。
その応用編、実践編として、もう一段具体的な質問にも答えをもとう。
「我社の人材育成とは?」
・褒めて育てる(または叱って育てる)
・怒るのではなく叱る
・とにかく感謝する
などの答えがくるだろう。
「目標とは何か?」の質問に対しては、
・100%以上達成するためにあるもの
・達成にむけて努力するためのもの
・成長するために欠かせないもの
などの答えがあるだろう。
「利益とは何か?」の質問はどうだろう。
・利益とは儲けのこと
・利益は会社存続のための必要経費
・利益は給料やお休みの原資
・仕事の結果であり通信簿みたいなもの
などの答えがある。
社長は、聞かれると困るような質問を書き出し、それらに考えられ
る自分をつくろう。
自分の考えをもった上で、尊敬している経営者に尋ねてみるとよい。
本やセミナーなどで他の人の考えに触れたりして、自分のアイデアに
武者修行させるのもよい。
それをくり返しながらブレない不動の哲学をもつにいたる。何年もか
かる場合もあるだろう。
「経営計画書」をつくるとは、社長自身のそうした考えを整理して
いく作業でもある。その内容を会社全体のものとして周知徹底させて
いくのが経営者の仕事である。