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論文大会、弁論大会がある会社

私が20代から30代にかけて勤めていた会社には「論文大会」があった。
毎年秋に開催され、期間中に応募があった作品の中から最大3名が入選作に選ばれる。
入選すると翌年春の日本リテイリングセンター主催「米国小売業視察ツアー」(12日間の旅)に無料招待される。
自費で参加すると30万円するので、今の価値に換算すると60万円ほどだろうか。
アメリカに行きたいが、サラリーマンには勇気が必要な金額だった。

入社して2年目の論文大会に私は応募した。
結果通知書が自宅に郵送されたが、ものの見事に落選していた。
翌年の春、私はローンを組んで自費でツアーに参加した。
その年の秋の論文大会にも応募した。
今度は私とM君の二人が入選作に選ばれ、無料で米国視察ツアーに参加することができた。

米国では強烈なカルチャーショックを受けた。

論文はA4レポート用紙に10枚以上20枚未満書く。
テーマは原則として自由だが
1.経営理念について思うこと、私が実践していること
2.職場の問題発見と改善提案
が推奨されていた。

そのとき私は何を書いたのか思い出せないが、毎日仕事が終わってアパートに戻ると、すぐに机にむかって論文を書いては消し、書いては消ししていたことを思い出す。

ちなみにその会社には、「米国ツアー積立制度」もあった。
毎月の給料から最高2万円まで積み立てができる。
1年半積み立てれば自費参加できることから利用者も多く、会社は5%の補助金を出して社員の渡米をサポートしていた。

そんな話をあるセミナーでしたところ、受講者のA社長が挙手した。

「武沢先生、うちの会社には論文大会ではなく、弁論大会があります」
とおっしゃる。
横浜にある製造業(社員数100人)のA社では、毎年一回弁論大会を開催しているそうだ。弁論のテーマは「経営理念」。

毎年3月に経営計画発表会が行われるので、半年後の9月に「弁論大会」を開催しているという。
参加希望者は毎年20人ほどいるそうで、希望者はA4一枚の弁論企画書を事務局に提出し、スピーチの主旨を伝える。
事務局は応募者の中から審査によって10名を選ぶ。

よくそれだけの応募者が集まるものだと感心していたら、私の疑念を察知したのかA社長はこう言った。
「応募者には全員1万円出しています。そこで選ばれて弁論大会に出場できると3万円もらえます。もし特選(1名)に選ばれると10万円もらえます。来年は第10回記念大会なので30万円出します」

ちなみに「弁論大会」当日は昼に製造ラインを止める。
昼食後、全員が本社の体育館に集合する。
ゲスト講師による記念講演を聞いたあと、弁論大会が始まる。
参加者全員が1票をもち審査する。
去年優勝した女性の事務スタッフはうれしさのあまり泣き出してしまったそうだ。
大会が終わると、体育館に運ばれた食材でバーベキューするのが吉例になっているそうだ。

「大会の効果はいかがですか?」と尋ねてみた。
A社長は、感慨深そうな顔をした。
「最初の2~3年は話術が巧みな一部の社員だけが応募する大会でした。なかには、話術は巧みだけど本当の話なのか創作話なのかよく分からない弁論もありました。これではいけないと思い、話術は審査基準から外しました。あくまで本人が自分で考えたり、動いたりした結果をありのまま語っていただく。弁論の技術は不要なので、社内では【訥弁論大会】と冷やかす社員もいますが、訥々としか話せない社員でも参加できるようにしたのが大きな転機になりましたね。気づいてみたら、技術と品質で顧客の期待を上回るという経営理念がずいぶん浸透してきました。これからもずっと続けます」

理念浸透と問題発見・解決のための「論文大会」と「弁論大会」
企業によってはかなり使えると思うのだ。
お試しあれ。