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続・以前とは違う新しい成功者像

先週のつづき。

組織心理学者のグラントは自分の専門である「オリジナルな人」には次の三つの特徴があると言う。

1.先延ばし魔
2.不安がり
3.失敗が多い

グラントが「ワービーパーカー」への投資を断った理由のひとつは、スタートアップに時間をかけ過ぎていたこと。
スピードを競い、先行者利益を重んじるIT業界にあって、仕事が遅いことは命取りであるはずだ。

だが「ワービーパーカー」の経営陣は先延ばし魔の集まりだった
実際には単なる先延ばしをしていたのではなく、意味ある先延ばしたのであるが、詳しくは後述する。

グラント自身は典型的な「前倒し魔」らしい。重大な締切が数時間後に迫ったあの緊張感が数ヶ月前に訪れる。
だからすぐに着手し、すぐに片づけて安心するタイプである。
周囲は「仕事が早いね」と感嘆し、グラントもそれが自慢だ。
グラントが学生時代、卒論を大学に提出したのは締め切りの4ヶ月も前だったそうだ。

そんなグラントが学生を指導しているとき一人の優秀な学生が訪ねてきて言った。
「先延ばしにしている時ほど創造的なアイデアが浮かぶんです」
興味をもったグラントは学生と一緒に「創造性と先延ばしの相関関係」について調べてみることにした。

結果は図のとおり。(ここでは図がないが)
図には左右が時間軸、上下が創造性の高さで、この図で分かることは創造性が高い仕事の多くは、「すぐに着手してギリギリに提出する」のが最高という結果だった。
グラントのように締め切りよりかなり前にレポートを提出してくる人たちは仕事が早いが創造性は高くない。(いわゆる「前倒し魔」)
反対に、納期遅れで提出してきたグループも創造性が低い。(単なる「グズ」)
一番創造性が高いのは、すぐに取り組み初めて納期直前に提出してくるグループ(時間をかけてアイデアを練った)だった。

グラントたちの調べによれば、歴史上、オリジナルな偉人の多くは先延ばし魔だった。
例えばレオナルド・ダ・ヴィンチ。
彼は創作に打ち込んだり休んだりして、結局16年もかけて『モナ・リザ』を描きあげている。
その過程で自分を「負け組」と感じていたダ・ヴィンチは手記にも幾度となくそう記している。
しかし光学の世界に寄り道し、そこで学んだことで光の描き方を一変させ、画家として成熟していった。

 

●私たちは創造性と生産性を混同している可能性がある。
先延ばしは生産性の面では悪徳だが、創造性の面では美徳となり得る、とグラント。
ぐずぐずしていたら同業他社に先行者利益をもっていかれる、という指摘もある。
しかし、そもそも先行者利益をという言葉自体が、ほぼ都市伝説だとグラント。

50を超える製品カテゴリーを調査した有名な研究がある。
市場を開拓した先行企業と、改良し何か別の製品を売り出した後発企業とを比較すると先行企業の失敗率が47%であるのに対して後発企業はわずか8%で済んでいる。
Facebook(フェイスブック)もGoogle(グーグル)も後発企業であって、一番乗りの先行者利益を得たわけではない。

ワービーパーカーの経営陣が先延ばしにしたのは不安で一杯だったからでもある。
不安のあまり就活までしている。
投資家としてはそんな起業家にお金をだしたくない。
だが、当の本人たちは不安なのだからしようがない。

問題は不安の中味だ。グラントは疑いにも2種類あるという。

・自己への懐疑
・アイデアへの懐疑

自己への懐疑は、思考を停止させ動きを止めるのに対し、アイデアへの懐疑は力を与え、挑戦や実験、そして洗練へと自らを駆り立てる

つまりオリジナルな人になると言うのはとてもシンプルで、「自分はダメだ」と思うのではなく、「自分のアイデアがまだ良くない。
いつも最初の何回かはダメで、まだ合格点に到達してないだけだ」と考えるのだ。
そういう理由で先延ばしする。

<明日、本稿むすび>