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Cash or Card or ・・・

30年ほど前のこと、ロサンゼルス観光を終えてホテルに戻ると、相部屋の友人がいない。
友人はその日の朝、「背中に大きい腫れ物ができて痛むので市内観光は休む」と言っていた。
きっと病院にでも行ったのだろうと思ったが、ベッド脇のサイドテーブルにメモが数枚散らばっているのが目に入った。

私への伝言かと思ったが、英語で誰かと筆談した形跡だった。
「Cash or Card?」(現金にしますか、カード払いにしますか?」というメモがある。
一瞬で事態がのみ込めた。
きっと救急車を呼んだのだろう。
筆跡をみると「Cash or Card?」は救急隊員のものだった。

しばらくして友人が戻ってきた。
「ボクが激痛を訴えているのに、隊員はそれを無視して、支払い方法の確認ばかりする」と彼。
保険制度がなく、病気や事故は自己責任のアメリカ。
ましてや、日本からの旅行者が病気をしたとなれば、保険なんて適応されるはずがない。
しかも救急車は有料のアメリカ。隊員がまっさきに支払い方法を確認するのは当然のことなのだが、そのときは唖然とするしかなかった。(私は声を出して笑っていたが)

※アメリカでは救急車一回につき数百ドル(数万円)はする。
それにプラスして病院の治療費がかかる。

中国にも保険制度はあるが、強制と任意が併存する。
しかも高額医療費は全額本人負担となるので、「自己責任」のウエイトが高い。
中国にも救急車があり、誰でも呼べるが有料だ。
3km以内は初乗り運賃の50元(約800円)で、3km以上は1kmにつき7元加算される。
市内を走るタクシー運賃の3倍する計算だ。
病院が遠くにしかない田舎では大金が必要になるだろう。

もし日本人が中国で病気になったら、救急車の中や病院の受付で、「Cash or Card?」と聞かれるのだろうか。
いや、最近では「アリペイ or ウィーチャットペイ?」と聞かれる可能性が高い。
中国では今、スマホの電子決済が急速に普及しているのだ。
これからの時代、中国に限らず外国に出かける日本人はそうした決済アプリを入れておく方が安心なのである。

今年、中国の病院でこんな珍事が発生した。
大連にある病院で、手術中の女性が手術台の上で追加手術費用2,000元(約32,000円)を決済させられたというのだ。
ニュースによれば、大連市民の姜さん(20歳)は数日前から腹部に痛みがあり、大連医科大学附属病院を訪れた。
診察の結果、子宮に腫瘍が見つかり、即手術が必要だと言い渡された。
医師の勧めで当日手術が行われ、部分麻酔をかけられた直後、医師から耳を疑う言葉が発せられたという。
「腫瘍が子宮の内部にもうひとつ見つかったので、これも取り除きます。手術費は追加で2,000元(約3万2,000円)かかるので、今すぐ、スマホのQRコードで決済してください」

部分麻酔をかけられ、身動きが取れない姜さんは、言われるままにスマホ決済で追加代金を支払ったという。
病院側によれば、これまでも複数の患者に手術台で手術費用の追加支払いをさせたことがあると認めている。

こういう時代だ。
Cardやスマホ決済があるということは便利なのか不便なのか。

気分をかえて、明日はスマホ決済戦争の最新事情をお届けしたい。