その他

村上とカーヴァー

2008年2月、日光をひとり旅した。
乗り継ぎで宇都宮駅構内の書店に立ち寄り、『海辺のカフカ』を買った。
当時、村上春樹は短編しか読んだことがなく、長編を読みたいと思っていた。
日光への電車で読み始めた。

外をみると雪が降り始めていた。夕方
金谷ホテルにチェックインした直後に本降りになり、部屋の窓からぼんやりと雪景色を眺めた。

夕食のコース料理は独り、文庫を手にしてフレンチを味わった。
周囲をみると、ひとり旅とおぼしき女性が二人いた。
一人は愉快そうに何ごとかつぶやきながら料理とワインを満喫しておられた。
もう一人の女性は、私みたく文庫本を手に食事していた。
とてもおいしい料理とワインだったが、それ以上に『海辺のカフカ』に夢中になったことを覚えている。
それ以来、村上の長編をコツコツ読んできたが、今だにカフカを超える作品には出会っていない。

友だちの友だちがよい友だちになれないことがある。
それと同じで、自分が好きな作家が大好きな作家を好きになれるとはかぎらない。
司馬遼太郎が愛した太宰は好きになれない。
村上が絶賛し、自らも翻訳しているカポーティやスコット・フィッツジェラルドは、私にはあわなかった。

だが、レイモンド・カーヴァーはよい。
ヘミングウェイやチェーホフに並び称されることもあるほどの短編小説の奇才である。
カーヴァーの『頼むから静かにしてくれ』は少なくとも10回は読んだはずだ。

肺がんによって50歳で世を去った彼は、人生で一番誇れることはアル中を克服したことだという。
毎晩、前後不覚になるまで酒に浸ってきた彼が39歳のとき、きっちり酒をやめている。

その後、カーヴァーは本来の力を発揮。
訪れた村上春樹にも会っている。
ちなみにカーヴァーを日本に紹介したのは村上であり、全作品が村上翻訳である。

カーヴァーの書き方は独特だ。
ひとつの小説を書くとき、少なくとも20から30の原稿をつくる
10や12を下回ることはない。

第1稿は手書きで一気呵成に書く。できるだけスピードをあげて紙を埋めていく。
時として、自分にしか読めない速記のような文字で書いたり、あとで手直しするための自分用メモを書き込んだりする。
第1稿はアウトラインをつけることが目的なので、細かくていねいに描写するのは第2稿、第3稿までとっておく。

こうして手書きの第1稿が完成すると、それをもとにタイプして新たに原稿をつくる。
タイプでの修正・加筆・削除は20回から30回くり返す。
たいていの場合、第1稿の原稿の半分は削ることになるそうだ
ときには詩も書くが、そちらは40~50回は推敲するという。

こうして村上作品、カーヴァー作品のことを書いていると無性にまた読みたくなってきた。

(参考『作家はどうやって小説を書くのか、じっくり聞いてみよう』)


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