その他

ビアガーデンと億男

6月某日、セミナーの後の懇親会で品川のビアガーデンに向かった。

「もうビアガーデンやってるの?」と聞く私。
「武沢さん、ビアガーデンはもうかき入れ時ですよ。
春休みから営業している店もあるくらいです」と C 氏。

梅雨の晴れ間でその日は暑かった。店内は予想通り込んでいたが、一行数人は待たされることなく入店できた。
今年初のビアガーデンは、やっぱり気分がいい。

乾杯のあと、「お金儲けは楽しいですね」と A 氏。
セミナーのあとの充実感からか、とても美味そうにビールを飲みながらしみじみとそう言う。
A 氏 はいま、不動産投資がとても順調で羽振りがよさそうだ。
顔つきもどことなく布袋様を思い出す福相である。

新潟から来てくれた製造業の B 社長もアジア向けのパネル出荷が絶好調で、毎月のように社員や関係者に大入り袋を支給しているという。
氏とは以前から面識があるが、以前にくらべて相当にこやかになり、大黒様と恵比寿様を足したような笑顔になられた。
顔色もピンクで、ツヤツヤしている。
「僕はお金そのものが好きと言うより、お金が増えていく感覚がたまらなく好きですね」と B 氏。

その隣に、あまり羽振りが良さそうには見えない輸入家具販売の C 氏が座っていた。
当然、笑顔なんかない。
「うらやましいなぁ。ぼくは仕事が楽しいとか、好きだとかいう感覚になったことがないですね。仕事はプレッシャーというか義務とか責任とか、そういう感覚でしかないです」という。

そんな C 氏が思わぬことを聞いてきた。
「武沢さんもお金儲けが楽しいと思っていまの仕事をされているのですか?」
「私は金儲けだと思って仕事をしたことがない」
「ほんとですかあ?」と疑うような目を向ける C 氏。
「本当だよ。金儲けという言葉そのものが露骨で好きになれない」

すると A 氏がこんなことを言った。
「僕はお金が大好きです。なのでお金の住み家である財布にはお金をかけていますし、古い紙幣を受け取ったら家で汚れをとったり、自分でアイロンをかけたりします。妻はいやがりますけど」

「え、まじで?」と驚く C 氏は、「僕なんかコンビニのお釣りでよれよれの紙幣もらったら、別のに替えてもらいますよ。だって、誰がどこで汚したかわからなくて不衛生じゃないですか」

「日本人はお金を不浄と思っている。その証拠にお祝いや謝礼のお金を紙袋で包み、その上に、ふくさを使ったりする。欧米では紙幣は裸のままポケットに入れて財布すら使わない人もいる」とB氏。

予期せぬお金談義が始まったので、私は最近読んだばかりの『億男』(おくおとこ)という小説の話をした。

・・・・・
主人公の青年(とはいっても40歳くらい)が宝くじを当ててしまう。
突如もらった3億円という金額の大きさに自分をもてあまし、人生を狂わせてしまってはいけない。
そこで昔の友人のマンションを訪ねる。その友人はビジネスで成功し、会社を売却したことで100億以上の個人資産をつくっていた。
資産家の友人が主人公に聞く。
「お前はお金が好きか?」
「もちろん好きさ。嫌いな人間なんているのかな?」
「じゃあ、お金持ちになりたいか?」
「なりたくないといえばウソになる」
そこで友人が意外なことを質問した。
「一万円札の大きさを知っているか?」
「ごめん、分からないよ」

友人はいう。縦76ミリ、横160ミリと。重さは1グラムで一円玉と同じ重さだと。
5千円札は縦76ミリ、横156ミリ、千円札は縦76ミリ、横150ミリ。
調べればすぐ分かることだし、調べるのに要する時間はわずかな時間だ。
僕はすべての紙幣と硬貨のサイズと重さを計ってみた。
君がそれをしようと思わなかったのは、お金に興味がないか、お金が好きじゃなかったからだよ。
自分の体重や、自分の会社の業績はいつも気にしているのに、お金のことを気にしないのは興味がないからでしょ。
・・・・・

私はこの本を京都に向かう新幹線で読んだ。
車内でそっと財布を取り出し、実際に三種類の紙幣をとりだし、重ね合わせてみた。
紙幣の図柄もまじまじとみた。
5千円の裏側ってこんな絵だったんだと驚いた。
硬貨の大きさや重さもあらためて確認した
そのように紙幣と硬貨と向き合ったことはいままで一度もなかったかもしれない。

ビアガーデンでそんな話をしたところ、C 氏が自虐的にこう言った。
「僕なんか5千円の肖像画が誰なのか、いまだに知りませんよ。さすがに千円札が夏目漱石であることぐらいは知っていますが・・・」

皆で大爆笑し、ビールをお替わりした。

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おそらく購読していない人が騒ぎ、購読している人は騒いでいないのではない
でしょうか。結局、何があっても良いように備えをしておくしかないのですか
ら。
今日、マグニチュード10.6の東海大地震があると予測している予言者もいるそ
うです。

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