「あそこの会社は私の指導通りにやらないから伸びないんだよ。
しゃれたスーツに身を包み、
顧問先の悪口を吹聴していた。
場所は香港。
この人は苦労するだろうな、
かくいう私もかけ出しのころ、
コンサルタントがやってはいけないことをやってしまったのだ。
当時その会社は社員の離職率が高く、
若手社員の不満を幹部が代弁する。
だが社長は社長で、「
結局、
「どうも議論がかみ合わない。武沢先生はどう思われますか?」
「御社にとって何が問題なのか、私にはよく分かります。
「ほー、そうですか。何ですかそれは」
「社長ご自身です」
「わたし?」
「そうです。
社長の顔は紅潮した。
「ふ~ん、そうなんですかね。武沢先生ならこういう場合、
「はい、こうします」
と自分の考えを話した。
「ま、とにかくいったん休憩しましょう」
私も立ち上がって自販機の方に歩き出すと、
「ありがとう」私がそう言うと、
「武沢先生がうちの社長だったら良かったのに」
そのひと言で、「あ、やってしまった」と思った。
依頼主は社長である。
社長がよくなり、
試合に勝って勝負に負けたかもしれない。
私の肩書きは経営コンサルタントだが、正確にいえば「
経営を教えるのではない。
いわんや、
その社長以上にその会社を経営するのにふさわしい人はいない。
そこのところを逸脱すると「武沢先生が社長だったら」
これを言われたらコンサルタント失格だと思っている。