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損益マスタープラン その2

Rewrite:2014年3月30日(日)

株式会社東海食品興業(仮名)の久世社長は、粗利益の一般的な分配比率について目安がほしいと言った。そこで以下に、一般的な企業のものと同社の数字を対比して載せる。

◇配分項目        ◇世間一般の目安  ◇東海食品興業

1.社員への分配(人件費)・・・・・・・・・45%   53%
2.経費への分配(一般経費)・・・・・・・・20%   23%
3.再生産への分配(償却費)・・・・・・・・ 3%    3%
4.戦略分配(開発費や研究費)・・・・・・・ 2%    0%
5.金融への分配(営業外損益)・・・・・・・ 2%   -2%
6.安全への分配(特別損益)・・・・・・・・ 2%    1%
7.経営者への分配(役員報酬・役員賞与)・・ 5%   12%
8.社会への分配(納税充当金)・・・・・・・10%    4%
9.資本家への分配(配当)・・・・・・・・・ 1%    1%
10.社内蓄積への分配(内部留保)・・・・・10%    5%

合計            100%  100%

久世社長は、「なるほど、こうして比較すると分かりやすい。この目安を将来的な目標にしてゆけば良いのですね」と久世社長は笑顔を浮かべた。
「久世さん、これはひとつの目安です。業種によっても異なるし、社長の方針によっても異なります。たとえば、私のように経営コンサルタントの会社ですと人件費のかたまりのような業界です。粗利益率が高い業種ほど人件費依存度が高いようです。また、開発系の会社は4番が大きくなるし、装置産業と呼ばれるような製造工場では3番が大きくなる。ですから、これはあくまで目安に過ぎません」

「なるほど、目安ですか。目安とはいっても何か意味があるのでしょう?この数字には」

「鋭い質問です。その意味を申し上げましょう。」と言って次のような解説をした。

1の社員分配について

これは7の経営者分配と合算して考える。粗利益に占める1と7の割合を「労働分配率」というが、一般的な業種では50%を切りたい。
特殊な業種でもないかぎり、この「労働分配率」が65%を越えているようでは内部留保は進まないはずだ。東海食品興業でも1と7を足すと65%にも達する。これでは収益悪化を招いて当然だ。

対策は三つだ。

1.人を減らして人件費を減らす
2.雇用を確保するために一人あたりの給料を減らす
3.雇用も給料も維持して、一人当たりの粗利益を上げる作戦をとる

何らかの方針を決めなければならない。

3の再生産への分配(減価償却)について

一般的には2~3%を見ておけば十分だが、例外もある。先に述べたような装置産業だ。
装置産業とはこの場合、製造工場だけでなく、出店意欲旺盛なチェーンストア企業、特殊車両を武器にする運送業、展示場営業が生命線のハウジングメーカーなども広義の装置産業とみてよい。

4の戦略分配について(開発費、研究費)

開発志向の強い会社はこの数字が多くなる。また、新しい事業機会を見つけるために外国出張するとか、どこかのフランチャイズに加盟する、IT化のための投資などもこの戦略分配に入れて計算しなおしてもよい。

7の経営者への分配について

粗利益に占める役員報酬の割合を決めておくと何かと都合がよい。企業規模が大きくなるほど相対的に比率は低下する。大企業の役員報酬になれば1%を切ることも珍しくない。
逆に創業して間もないスモールビジネスは比率が極端に高くなる。役員報酬の中には、社長以外の役員すべてを含めて考える。

9の資本家への分配について

社外株主の比率が高い場合は、これも目標設定すべきだろう。また、ほとんど経営者が株主を兼ねている日本の多くの中小企業では、財務体質の目標をクリアするまでは、配当するより内部留保に回したほうが良い。

8と10について

この2つはペアとして考えよう。社会への分配である税金と内部留保とは原則的に同じ数字になるはずだ。なぜなら利益の半分が納税、残った半分が純利益になるからだ。
税金を減らすことに熱中してきた会社は、おおむね内部留保は乏しいはずだ。

「なるほど武沢さん、自分なりに作ってみます」といって久世社長は来年度から5年先までの分配計画を完成させて。

真っ先に内部留保と納税の比率を決め、残った数字を他の項目に分配していったという。
しかも、まず5年後から作り、さかのぼって4年後、3年後・・・というように作業を進めたというではないか。鋭い感性をお持ちだ。今後5年間、売り上げの伸びをどの程度見込めるか、粗利益率はどのように推移しそうか、の2点を決めれば、あとは前もって作った配分計画を当てはめることで五カ年計画はすぐに完成する。

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