「どうしようみんな。この仕事を受けていいかな」と社長。
「誰がやるんですか?」と幹部社員。
「誰かこの荷物を九州まで運んでくれんか」懇願するような社長の目。
「いませんよ、だれも」つれない社員たち。
「・・・じゃあ、・・・断るか・・・」うつむく社長。
人手不足・人件費増大・労使関係の悪化など、労務問題が原因で起こる倒産を「労務倒産」という。
ここにきて、仕事はあるのにやってくれる社員がいないことから受注が減少し、倒産する企業が増えている。
いわゆる「人手不足倒産」で、これが多いのは老人福祉、道路貨物輸送、ソフト受託開発だという。(帝国データバンク調査)
それ以外の業種では、建設、飲食、サービスなども人材難。ますますこの問題は深刻化する可能性がある。
今年2月のNHK ニュースで紹介されたのは16人いた運送会社が8人になってしまったケース。
3年間募集しても応募者はゼロだったので、思いきって給料を50万円に引き上げてみたものの、それでも反応がなく倒産に追い込まれた。
http://www.nhk.or.jp/ohayou/digest/2018/02/0201.html
日本中で「働き方改革」が猛威をふるっている。働き方改革戦争といってもよい。そうした潮流を従業者も知っている。
にもかかわらず慢性的残業体質を変えられず、社員を酷使することを前提に経営していては人が去って行くばかりだ。もう昔の経営スタイルには戻れない。
冒頭の運送会社の場合、社員は名古屋から九州に行くのが嫌なのではない。九州に行くための条件がのめないのだ。
納品までの時間の少なさは、ノンストップで運べと言っているようなもの。
それにひきかえ報酬条件に魅力はない。昔なら身体を酷使し、家族を犠牲にしても目の前の給料が欲しかったが、いまは家族や自分の時間、それに自分の体調を優先する。
「求人こそが事業だ」とまで言い切る経営者がでてきた。
人材獲得が企業の存続を決める時代に突入しているのだ。かつては幹部専門のヘッドハンティング会社だったところも、一般社員をヘッドハントしている。
あなたの会社の一般社員が標的になっている可能性だってある。
いつでも欲しいときに欲しいだけの人数が採れる会社になろう。
「我が社で働くことの魅力」を高めよう。もちろんそれには原資がいる。資金が必要になる。借入に頼った資金ではなく、利益から資金を捻出しよう。
そのためには値段の安さだけをウリにする経営を卒業せねばならない。安さだけがウリの会社では、社員の雇用を維持できなくなるからだ。
かつては薄利多売でも十分な利益が残せたが、今の時代、多売ができないので単なる薄利で終わる。
「安さ」に替わる武器、それはサービスや質の高さである。独自のウリをもつことで指名買いされる会社になろう。
最も高収益な製造業といわれるキーエンスは、相見積もりになった時点でその製品(事業)から撤退すると決めている。それぐらいの明確な基準が必要である。
経営計画書の端っこのほうにあった「働き方改革に関する方針」が、徐々に一等地を占めるようになってきた。