経営数字、決算、財務

トントン企業の未来は死

経営計画の相談で P 社長とお会いした。

5年前に友人と二人で起ち上げた清掃と棚卸し専門の人材派遣会社は、コンビニや飲食店からの引き合いが旺盛で、業績もよい。コンスタントに千万単位の営業利益を出し、売上対比の営業利益率は15%以上ある。
話しをうかがってみると、 P 社長(35歳)と友人の L 専務(34歳)の経営観が新鮮だった。我が意を得たり、というべきか。要約すればお二人の話は次のような内容だった。

1.自己資金が毎月増えるような経営をする
2.それには資金の動きを観察し、利益から逆算した数字目標にする
3.若いスタッフが多いため、役員は格好良くあらねばならない。そのため、役員報酬の月額は最低でも75万円、幹部は50万円以上とする
4.給料以外のコストは極限まで下げて利益最大化の使命を果たす
5.高い利益を出すことと、充分な待遇を確保することが両立できないビジネスを我社が選択してはならない。もしそういう事業に遭遇してしまったら、一年以内に完全撤退する。なぜなら、それは我が社の理念にふさわしくない事業だから。

建設業界出身の P 社長と L 専務は、利益が出ていない会社をたくさんみてきた。
「トントンの会社ではいけない。歳だけ喰っていくからトントンは衰退と同じ。成長しない会社は衰退している」と P 社長。

「たしかにそうだね」と私が言うと、いままで黙っていた L 専務が初めて口をひらいた。
それは意外にも過激な内容だった。
「武沢先生、我々の考えでは今の我が社もトントンです」

え?と決算書を確認すると、前期は3,000万円を超す営業利益をあげている。借入もそれほど多くないので資金繰り面も問題はない。
「これでもトントンなの?」と私。

「はい、1億以下はトントンだと見なしています。現状の利益では、設備投資したり、役員人材を雇用したりする体力がありません。不況がきたり、同業者がダンピングし始めたらすぐに吹っ飛ぶ金額です」と L 専務。なかなかシビアに自社をとらえているようだ。

私もコンサルタントになって最初の10年ほどは、各地でこんなことを申し上げていた。

1.経常利益1,000万円以下は利益と呼べない。そんな金額は、さじ加減ひとつの、いわば誤差の範囲である。
2.役員報酬は最低でも年間1,000万円にする。しかも毎年その額が増えていくような計画にしないと会社も伸びない。
3.会社の成長率は最低でも5年で2倍にする。年率15%成長である。
それが期待できないような事業であれば、それは本業と呼べない。

ふりかえってみれば、ここ何年かはあまりそれを言ってきていない。
「そんなのムリですよ」「今どき、どこにそんな会社があるのですか」
など、嘆き節をたくさん聞きすぎたかもしれない。多くのトントン企業を見てきたせいもある。

トントンではいけない。トントンでは働き方も改革できないし、若い人材も入ってこない。後継者もいないから、廃業するか M&A されるのを待つしかない。そんな会社になってはいけない。

そのために「経営計画書」を作るのだから。

P 氏と L 氏とのミーティングを終え、これからは再び上の三つを平然と言おうと決心した。