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「TTP 徹底的にパクる」のではなく・・・

徹底的に模倣することには力がある。
米国では今年のアカデミー賞が決まったが、かつてダスティン・ホフマンがオスカー像を掲げてこんなスピーチをした。
「僕はハンフリーボガードにあこがれ、ボガードを真似し、ボガードを演じ続けるうちに、今日、ダスティン・ホフマンになりました」

模倣は最高の学習法のひとつだろう。

「経営計画は TTP に限ります」と A 社長。
私が「テンプ・トゥー・パームのこと?」と尋ねると「徹底的にパクること」の頭文字だという。
他社の良いところはそのまま模倣するのは分かるが、「パクる」という後ろめたい言葉づかいには経営者らしさを感じない。
せめて「模倣する」とか「拝借する」とか、音楽のように「カバーする」などの小洒落た表現を使えないものだろうか。

したがって「TTP」(徹底的にパクる)ではなく、「TTM」(徹底的に真似る、徹底的に模倣する)とか「TTC」(徹底的にカバーする)という言葉をつかおう。

昔サラリーマンをしていたとき、ある先輩が観た映画や読んだ本をTTC していたことがある。
デールカーネギーの「人を動かす」やラーキンの「時間管理の法則」
スマイルズの「自助論」などはすべてその先輩にすすめられたか、先輩の書棚にあるのを立ち読みし、後日書店で買い求めたものである。

読書ソムリエのような先輩や友人をもつことができたら幸せだ。最近は、自分も読書ソムリエたらんとしている。
こんなことがあった。

昨年暮れ、海外から女性起業家が名古屋まで訪ねてこられた。
近くのおでん屋でビールで乾杯し、彼女の新事業構想などを聞くうちに、私はふたつのことをお伝えしたくなった。そのメッセージを伝えたあと、2冊の本をご紹介した。そうすれば、かならず彼女には真意が伝わると思ったからだ。

後日、彼女からこんな Facebook メッセージを頂戴した。

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(前略)
さて、先生にご紹介いただいた本、お正月休みにあっという間に読んでしまいました。読み始めると面白くて本当にあっという間でした!
「AIRBNB STORY」は色々な壁にぶち当たるスタートアップメンバーが知恵を絞って乗り越えて行く冷静さとガッツに大変勇気をもらいました。また、ウェブサイトの必須項目として挙げられた、
・滑らかに動くこと
・簡単に使えること
・掲載物件が美しく見えること
・必ず3クリック以内で予約が完了すること
のルールも具体案として勉強になりました。

もう一冊の「失敗の科学」では特に2点、勉強になったことがあります。
ひとつ目はマッキンゼー出身者ヴァニアーと起業経験者スレマーの違いについてです。
ヴァニアーは自社の優秀なプログラマーを使って時間をかけてバグのない完璧なプログラミングを目指す方式を主張しました。
一方、スレマーはサービス開始時点で完璧なソフトウェアを作り上げることは不可能で、どれだけ時間をかけて準備しても、ユーザーが使い出すと思いがけないバグや欠陥が見つかる。むしろあえて早い段階で市場に出し、コアなユーザーと一緒にプログラムを改良すると良いという現実的な方式を主張しました。
この二人が対照的で、最終的に彼らが出した答えは市場導入前にベータ版のソフトウェアを公開し、明らかになった欠陥を修正する方式でした。このエピソードはまさしく今の私の置かれている立場にも当てはまり、「やはりそうか!」と思わされました。

また、「事前検死」の考え方もとても面白かったです。
最初から「失敗ありき」で考え、プロジェクト開始前にあらかじめプロジェクトが失敗した状態を想定し、「なぜうまくいかなかったのか」をチームで事前検証していく方法です。
失敗していないうちからすでに失敗を想定して学ぼうとすることで、「失敗」という抽象的な概念を具体化すると問題に対する意識の持ちかたを変える。この斬新な考え方に非常に新しい発見がありました。
武沢先生にこの2冊を進めていただきまして勉強になりました。ありがとうございました!
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経営でも読書でも遊びでも、「TTC」相手を持つことは人生の持ち時間を増やしてくれることになる。