Rewrite:2014年3月22日(土)
日経BP社の『ビジョナリーカンパニー』は、世界レベルで成功をおさめた会社と、その比較対象企業を分析し、いついかなる経営判断がその差を生んだのかを詳しく解説している好著だ。その中で著者のジム・コリンズはおもしろい表現を使って私たちの固定観念をうち破ろうと試みている。
ビジョナリーカンパニーによって立証された「崩れた12の神話」として、次の常識をくつがえしたのだ。実際には12個あるが、その中から8個ピックアップし、要約してお伝えしよう。
◇神話1:すばらしい会社をはじめるには、すばらしい事業構想か画期的製品が必要である。
現実
「すばらしい構想」を持って会社をはじめようとするのは、悪い構想かもしれない。ビジョナリー・カンパニーには、具体的な構想をまったく持たずに設立したものもあり、スタートで完全につまずいたものも少なくない。
◇神話2:ビジョナリー・カンパニーには、ビジョンを持った偉大なカリスマ的指導者が必要である。
現実
ビジョナリー・カンパニーにとって、ビジョンを持ったカリスマ的指導者はまったく必要ない。こうした指導者はかえって、会社の長期の展望にマイナスになることもある。部下に対して時刻を教える達人になるのではなく、時計を作る名人になろう。
◇神話3:とくに成功している企業は、利益の追求を最大の目的としている。
現実
ビジョナリー・カンパニーの目標はさまざまで、利益を得ることはそのなかのひとつにすぎず、最大の目標であるとはかぎらない。確かに、利益を追求してはいるが、単なるカネ儲けを超えた基本的価値観や目的といった基本理念も、同じように大切にされている。しかし、不思議なもので、利益を最優先させる傾向が強い比較対象企業よりも、ビジョナリー・カンパニーの方が利益をあげている。
◇神話4:ビジョナリー・カンパニーには、共通した「正しい」基本的価値観がある。
現実
ビジョナリー・カンパニーであるための基本的価値観に、「正解」と言えるものはない。ビジョナリー・カンパニーのうち二社をとってみると、対照的とも言えるほど理念が違っているケースもある。決定的な点は、理念の内容ではなく、理念をいかに深く「信じて」いるか、そして、会社の一挙一動に、いかに一貫して理念が実践され、息づき、現れているかだ。
◇神話5:ビジョナリー・カンパニーは、だれにとってもすばらしい職場である。
現実
ビジョナリー・カンパニーは、その基本理念と高い要求にぴったりと「合う」者にとってだけ、すばらしい職場である。ビジョナリー・カンパニーで働くと、うまく適応して活躍するか(それ以上にないほど、幸せになるだろう)、病原菌か何かのように追い払われるかのどちらかになる。その中間はない。カルトのようだとすら言える。ビジョナリー・カンパニーは、存在意義、達成すべきことをはっきりさせているので、厳しい基準に合わせようとしなかったり、合わせられない者には、居場所はどこにもない。
武沢註:社員の定着率の高さを誇ることはできないし、その逆をなげく必要もない。むしろ誰も辞めない会社の方が危険だ。
◇神話6:大きく成長している企業は、綿密で複雑な戦略を立てて、最善の動きをとる。
現実
ビジョナリー・カンパニーがとる最善の動きのなかには、実験、試行錯誤、臨機応変によって、そして、文字通りの偶然によって生まれたものがある。あとから見ればじつに先見の明がある計画によるものに違いないと思えても、「大量のものを試し、うまくいったものを残す」方針の結果であることが多い。この点では、ビジョナリー・カンパニーは、種の進化によく似ている。ビジョナリー・カンパニーのような成功を収めようとするなら、チャールズ・ダーウィンの『種の起源』の概念の方が、企業の戦略策定に関するどんな教科書よりも、役に立つ。
◇神話7:根本的な変化を促すには、社外から経営者を迎えるべきだ。
現実
ビジョナリー・カンパニーの延べ千七百年の歴史のなかで、社外から経営者を迎えた例はわずか四回、それも二社だけだった。ビジョナリー・カンパニーは比較対象企業と比べて、社外の人材を経営者として雇用する確率が六分の一しかなかった。根本的な変化と斬新なアイデアは社内からは生まれないという一般常識は、何度も繰り返し崩されている。
◇神話8:もっとも成功している企業は、競争に勝つことを第一に考えている。
現実
ビジョナリー・カンパニーは、自らに勝つことを第一に考えている。これらの企業が成功し、競争に勝っているのは、最終目標を達成しているからというより「明日にはどうすれば、今日よりうまくやれるか」と厳しく問い続けた結果、自然に成功が生まれてくるからだ。そして、この問いかけを生活の習慣にして、ずっと続けてきた。どれほど目標を達成しても、どれほど競争相手を引き離しても、「もう十分だ」とは決して考えない。
以上ご紹介したのは、日経BP社の「ビジョナリーカンパニー」からの要約だが、同書では12の神話となっている。あとの4つは、
◇神話:「変わらない点は、変わり続けることだけである」
◇神話:「優良企業は危険をおかさない」
◇神話:「二つの相反することは、同時に獲得することはできない」
◇神話:「ビジョナリーカンパニーになるのは主に、経営者が先見的な発言をしているからだ」
となっている。より詳しくお知りになりたい方は同著をおすすめする。
世界的な優良企業の話をいくら読んだところで参考にならない、と言われるかも知れないがそんなことはない。こうした経営書のなかには大別して2種類の本がある。ひとつは大企業向けに書かれた本。そしてもうひとつが、中小企業向けに書かれた大企業(or優良企業)になるための本である。この本はその後者だ。