昨日のマガジンでご紹介したサービス業のある会社の話。「顧客第一主義」を経営理念に掲げ、会議での社長訓話や社内報の社長原稿、社内ポスターを使っての啓蒙などを続けてきた。しかし、理念が社内に定着しているとは言い難いと社長は考えていた。そこで経営コンサルタントの肩書きをもつ私にCSに関する講演を一発ぶちかまして欲しい、との要請だった。
講演くらいならお安い御用だが、「ぶちかますくらいで済むような問題ではない」と申し上げることにした。
この会社の最大の問題は「リンク切れ」である。ホームページで指定のアドレスをクリックしても「ページが見つかりません」と出るのがリンク切れだが、経営理念にもリンク切れがあるのだ。
この会社では、役員会議でも大半が業績確認に費やされ、顧客満足に関わる話題はほとんどない。ましてや顧客満足度をはかるものさしも持っていない。
経営理念を組織のすみずみにまで浸透させ、組織文化にまで高めるためには、高い精神エネルギーと社内制度の一貫性が不可欠だ。
評価・賃金制度や昇進昇格管理、社内表彰、個人目標の設定などあらゆる場面で理念の実現が第一に尊重される必要がある。
10名近いこの会社の役員のうち、約半数は顧客第一という考えを持っていない。また、どう見ても「利益第一」の考えをもつ取締役を営業部門の統括にあてている。つまりこの会社では、役員会メンバーですら「顧客第一」の理念が浸透していない。そこから先に表面化する人事制度や営業方針、社内マニュアルや管理方法などは推して知るべきなのだ。社長としては同じ釜の飯を喰ってきた経営陣を尊重するあまり、自分のカラーを押しつけたくないのかも知れない。遠慮も多少はあるのだろう。しかし、現場に対して日常的な指導を行うのは社長ではなく、取締役以下の経営幹部なのだ。
リンク切れを防止する最初で最大のハードルが経営陣の意思統一である。
次のハードルが諸制度でのリンク切れ防止と新たな社内キャンペーンである。
そして、経営理念の浸透をはかる何らかのものさしを持つことである。顧客第一主義の会社なら顧客満足度を測定する基準を作る。技術第一主義でも冒険第一主義でも構わない。進捗を計るものさしが必要なのだ。
小売業のA社では長年の間、客数の増加をもって顧客満足のものさしにしてきた。しかし、最近になって新基準をつけ加えた。顧客一人当たりの来店頻度を測定する方法だ。
また、あるカレーハウスは、カウンターの上に用意したアンケートによってお客様の声を直接聞いて経営に活かしている。
また、ある挑戦第一主義の会社は、一年間に断られた顧客数を評価の対象に加えている。知恵と工夫があれば、経営理念の浸透を測定することは可能だ。
紙面がなくなってしまった。昨日のマガジン「崩れた神話」の続きは、明日のマガジンで取り上げる。