★テーマ別★

AI 大普及の心構えとして

アメリカの政治家・グラントの小説が年末年始の米国でベストセラーランキングのトップの座を占めているという。
原文タイトルは『Grant』で、英語版ながら Kindleで読むことができる。著者のロン・チャーナウ氏は歴史上の人物を徹底的に調べ上げ、新たな視点から人物像を絶妙の筆致で描き出す伝記小説家で、さしずめ司馬遼太郎のような作家と言われている。早く翻訳版を読んでみたいものだ。

私はこの正月休みに、もうひとりのベストセラー作家、スティーブン・キング氏の『11.22.63』を Amazon プライムビデオで観た。
「ウサギの穴」といわれるところから過去と現在を行き来できる主人公は1963年に戻り、ケネディ大統領暗殺を阻止する使命をもつ。
だが、歴史は変えられることを拒み、主人公に予期せぬ難題が次々に襲いかかるという物語で、60年代のアメリカを忠実に再現した場面が楽しめる。全9話(約7時間)の大作なので映画上映には適さず、シリーズドラマ化された。

こうしたネット動画サービスは Amazon のプライムビデオのほかに、「ネットフリックス」「Hulu」(フールー)、日本の「Abema TV」などがある。
最大手は「ネットフリックス」で世界に1億人の会員を持ち、人工知能(AI)を活用しながら会員を増やし続けている。

誰がいつ、どこで、どんな作品を観たいと思うのか分からないというコンテンツ産業の悩ましき課題をネットフリックスは AI で解決してきた。そういう意味では、ネットフリックスはネット動画配信会社でありながら、その実はテクノロジー企業といえる。
Amazon のジェフ・ベゾスも、自社をテクノロジーの会社と定義しているが、テクノロジーを開発するか、テクノロジーを駆使する会社が業界地図を塗り替えているのが今の潮流だ。

ネットフリックスは作品づくりにも AI を生かしている。
オリジナル番組『ハウス・オブ・カード』は AI データを基に起用する俳優や監督を決めた。スリラー好きはどんな俳優を好むか、どの監督が作れば利用者は最後まで視聴するかというデータを活用したというのだ。

こうして AI を駆使し、ハリウッドの勢力図を塗り替えようとしているネット動画会社に死角はないのだろうか?このままコンテンツ産業は新興企業にやられてしまうのだろうか?

ネットフリックスの CEO リード・ヘイスティングスは技術系の会議でこう述べている。

「我々の番組はヒット率が高すぎて、新番組の打ち切りが少ないのが問題です」

AI によって成功率が高まり、失敗率が減った。もっとリスクをおかしてとんでもないことを試し、多くを学ぶべきなのにそれが出来ていないというのだ。
従来の映画会社がためいきをつきたくなるような贅沢な悩みを告白したのだが、ヘイスティングスもホンネを言ったに過ぎない。

AI は大量のデータを学習することで高度化していく。AI 導入の初期段階ではデータによる学習が不十分なので、失敗もある。データが膨大に蓄積されると、今度はなかなか失敗しなくなる。それが問題だとヘイスティングスが指摘しているのだ。

失敗も含めて AI はたくさんのデータ(要するに経験知)が重要なのであり、そもそも失敗することを恐れる姿勢の会社では AI の導入と活用が進まない。
私たちが懸念するのは日本企業(特に大企業)の AI 導入率が欧米や中国などに比べて相当遅れている現状がある点。データ量がものを言うAI にとってスタートの立ち遅れは取り戻すのが困難である。

幸い、まだ AI 活用 は人間でいえばよちよち歩きの段階なので、追いつき追い越す時間は残されている。
今年は AI を使った製品や機械、サービスが一気に増える。AI 大普及の年になりそうだ。そうしたもので利益を享受するだけでなく、新たに利益を提供する側に回ろうとする攻めの姿勢を忘れないようにしたい。


Warning: Trying to access array offset on value of type null in /home/xs470582/e-comon.jp/public_html/wp-content/plugins/amazonjs/amazonjs.php on line 637