Rewrite:2014年3月21日(金)
音楽家モーツァルトは、いくつかの作曲を同時に行い、しかもいずれの曲も名曲だった。天才のなせる技だ。しかし、ブラームス、バッハ、ヘンデル、ハイドンなどは、多作ではあっても一時に一曲しか作曲しなかった。ひとつの曲を完成させてからか、あるいは制作中の曲をいったんお蔵入りにしてからでなければ、次の曲にはかからなかったそうである。モーツァルトは唯一の例外と言ってもよい。
経営者が、その仕事においてモーツァルトたらんとすることは困難だ。しかし、それをやろうとしていることに問題が潜んでいる。
「効果的な仕事」と「効率的な仕事」ということにふれておこう。
「効果的な仕事」とは、予定した成果にむすびつく仕事の仕方をさす。一方、「効率的な仕事」とは、時間内にたくさんの仕事をつめこむ仕事の仕方をさす。
建設現場や生産ラインの先端ではたらく定型作業者にとっては、ムダ・ムラ・ムリをなくした「効率的な仕事」をすることが、その命である。しかし、企業経営者や経営幹部など、ホワイトカラー(知的労働者)にとっては、「効果的な仕事」が期待されるのであり、「効率的な仕事」は二次的な問題といえよう。
「効果的な仕事」をするために、もっとも大切なことは優先順位と集中だ。私の知るかぎり、事業計画をもった経営者は、優先順位に忠実たらんとする。事業計画が不在の経営者は、優先順位という考え方を意識していない。あるいは、意識していてもそれに忠実とはいえないようだ。
ある自動車ディーラー、A社の社長は「私のことを優先順位の奴隷と呼んでくれ」と社内外で豪語し、事実そのとおりの時間を過ごし成果をあげている。
そのA社のユニークな取り組みを2~3ご紹介すると、毎月の幹部会議の議題に「私(我々)が今月、新たにおこなうべきことは何か」「私(我々)が今月、やめるべき仕事は何か」というテーマが議論される。いたずらな仕事の増加を防ぎ、生産的な仕事に専念するための配慮だそうだ。
さらに営業の受注ラッシュが月末に集中することを問題とし、毎月26日から末日までを「全社定時デー」とし、午後6時以降に仕事をしているのが発覚したら始末書を提出することになっている。
そして、社長自身は、外部からの電話には一切でない。すべてまとめて折り返し電話することにしている。もちろん内線電話すらつながっていない。スマホは発信専用だ。
この社長は、「そこまでやるか、と言われるくらいでちょうど良いんです」と語っていた。
劣後順位という言葉がある。優先順位の反対で、やるべきでないことの順位だ。実はこの劣後順位を作ることの方が困難かつ大切なのだ。あなたにとっての優先順位を紙に書いて下さい、とお願いすると全員が時間内で仕上げることができる。ところが、あなたにとってやるべきでない劣後順位を書け、と言われると途方にくれる。書けたにしても、実行には強い意志をともなう。
「効果的な仕事」をめざす上で、優先順位と劣後順位に忠実になることが大切である。