「戦戦兢兢として深淵に臨むが如く、薄氷を履むが如し」
「生活のすべてを薄氷を踏むが如くすべし」
「薄氷を履むが如く、ですか」と真意をはかりかねていると、「
「わかりました」
「トイレに行った際には、放尿に集中しなさい。
「はい」
「薬石(夕食)にあってはひたすら咀嚼に専念するのです」
「はい」
「要するに、
「わかりました。やってみます」
座禅の最中、立ち上がって禅師の前を一礼し通り過ぎる。
そのときの立ち上がり方、歩き方、お辞儀の仕方、
お辞儀で褒められたのは初めてだ。それに専念することと、
そんな経験をしてからというもの、
総じていえることはお辞儀が浅く、早い。
気持ちは伝わってくるが美しくはない。
だが最近おじゃましたフィンテック企業の「コロンブス・
IT 企業には珍しくドレスコードがあるらしく、男性は全員が黒または濃紺のスーツにネクタイをきつく閉めていた。
プログラマーも同様である。
それに男性も女性もお辞儀が美しい。BGM は琴の楽曲が流れていた。
不思議なもので、そうした環境にいると、
まだ30歳代とおぼしき若い社長が現れた。当然、
「実は今日だけなんです」
「え、どういうことですか?」
「毎月1の日だけがスーツと決めていて、
「1の日?」
「はい、1日と11日と21日と31日です。
「なるほど、狙いは?」
「幾つかの理由がありますが、
「おもしろい」
「もうひとつは、馬子にも衣装といいますが、
「だったらいっそ毎日スーツにすればどうです」
「それはそれで堅苦しい。それにアメリカのある大学の研究では、
「ほお」
「大企業病の温床がスーツにあるというわけです。それで月に3~
「効果のほどは?」
「社員の発案で今年からこういうルールを取り入れたのですが、
「うちもやってみようかな」
「おすすめですよ。社員からは、
服装を整え、お辞儀や歩行を10分の1にする。