2013年のこと、外国で生活している友人が久しぶりに日本を訪ねてきた。「一度でいいから浅草寺を観たい」というので東京までお付き合いした。行ってみると、普段の浅草寺と様子がちがう。そこにあるべきものがないのだ。
そう、雷門の大提灯修復が10年ぶりに行われており、あの提灯がそこにぶら下がっていなかったのだ。残念がる友人。私は「むしろ貴重な経験だよ。Facebook にこの画像をあげれば珍しがられるよ」と励ました。
雷門は、1865年に火災で焼失したが、松下幸之助が1960年に再建した。そのとき大提灯の奉納も行い、以来、10年に一度の割合で提灯の修復を行ってきているそうだ。
提灯下の「松下電器」の文字は小さく、道頓堀のグリコ看板ほどの広告効果は期待できないが、それでも多くの観光客がその都度「松下電器」を認識する効果は大きい。
松下幸之助が「経営の神様」と呼ばれるようになったのは昭和37年からだが、その少し前の昭和33年当時は「商売の神様」と呼ばれていた。たしかに宣伝も販売もとても上手で雷門の大提灯も昭和35年からなので商売人・幸之助の絶頂期かもしれない。
それとちょど同じ時期にあたる、1960年(昭和35年)8月~1961年(昭和36年)4月までの8ヶ月間、『ナショナルキッド』がテレビ放映された。東映が手掛けた初のSF特撮作品でテレビ朝日系列が放送した。木曜日の夕方だったが、小学生になったばかりの私はその日だけは朝からワクワクしていた。
ウルトラマンシリーズの前身『ウルトラ Q』が5年後の1966年スタートなので、いかに『ナショナルキッド』が先端的であったかがわかる。
ところで「ナショナル」とは何か。
それは「国家の」「国民の」という意味の英単語だが、松下電器が当時力を入れていた電化製品のブランド名称でもある。
単独スポンサーで『ナショナルキッド』という番組をつくり、子供たちに科学の夢を与えていたわけだから、実に見事なマーケティングだ。
ちなみに『ナショナルキッド』の武器は光線銃。格闘能力にも長け、無敵の超人なのだが非常に礼儀正しいのが特長。
自分のことをいつも「わたくし」という。それに敵味方関係なく礼儀正しく接していた。ひょっとしてスポンサーの幸之助の意向だったのかもしれない。
最後に、そんな幸之助がつくった「商売戦術30か条」をご紹介しよう。
1.商売は世のため人のための奉仕にして、利益はその当然の報酬なり
2.お客様をじろじろ見るべからず。うるさく付きまとうべからず
3.店の大小よりも場所の良否、場所の良否よりも品の如何
4.棚立て上手は商売下手。小さい店でゴタゴタしている方がかえってよい場合あり
5.取引先は皆親類にせよ。これに同情を持ってもらうか否か店の興廃のわかるるところ
6.売る前のお世辞より、売った後の奉仕。これこそ永久の客を作る
7.お客様の小言は神の声と思って何ごとも喜んで受け入れよ
8.資金の少なさを憂うなかれ。信用のたらざるを憂うべし
9.仕入れは簡単にせよ。安心してできる簡単な仕入れは繁盛の因と知るべし
10.百円のお客様よりは一円のお客様が店を繁盛させる基と知るべし
11.無理に売るな。客の好むものも売るな。客のためになるものを売れ
12.資金の回転を多くせよ。百円の資本も十回まわせば千円になる
13.品物の取り換えや返品にこられた場合は、売ったときよりも一層気持ちよく接せよ
14.お客の前で店員小僧をしかるくらいお客を追い払う妙手段はない
15.良き品を売ることは善なり。良き品を広告して多く売ることはさらに善なり
16.自分の行う販売がなければ社会は運転しないという自信を持て。
そしてそれだけに大なる責任を感ぜよ
17.仕入先に親切にせよ。そして正当な要求は遠慮なく言え
18.紙一枚でも景品はお客を喜ばせるものだ。付けてあげるもののない時は笑顔を景品にせよ
19,店のために働くことが同時に店員のためになるよう、待遇その他適当の方法を講ずべし
20.絶えず美しい陳列でお客の足を集めることも一案
21.紙一枚でも無駄にすることはそれだけ商品の値段を高くする
22.品切れは店の不注意、お詫びして後「早速取り寄せてお届けします」とお客の住所を伺うべきである
23.正札を守れ。値引きはかえって気持ちを悪くするくらいが落ちだ
24.子供は福の神。子供連れのお客、子供が使いにきての買い物にはとくに注意せよ
25.常に考えよ今日の損益を。今日の損益を明らかにしないでは寝に就かぬ習慣にせよ
26.「あの店の品だから」と信用し、誇りにされるようになれ
27.御用聞きは、何か一、二の品物なり商品の広告ビラなり持って歩け
28.店先を賑やかにせよ。元気よく立ち働け。活気ある店に客集まる
29.毎日の新聞広告は一通り目を通しておけ。注文されて知らぬようでは商人の恥と知るべし
30.商人には好況不況はない。いずれにしても儲けなければならぬ