リビングで遊ぶ兄妹の会話。ふたりとも小学生らしい。
「お兄ちゃん、ちょっと悪いけど2,000万円貸してくれない?」と妹。
「別にいいけど・・・。何に使うの」と兄。
「家を買ったせいでやりくりが苦しいの。お兄ちゃんなら幾らでも持ってるでしょ」
「ふ~ん。はい、いま送っておいたから受け取って」
「ありがとう。うれしいわ」
これは、ある人気ゲームでの話。
兄はある裏技をつかったせいで無尽蔵にお金がある。この世の富はすべて手に入る状態らしい。
二人の父親が言うには、その裏技を見つけたときは「すごいでしょ!」
と興奮しまくっていた兄。しかし、あり余る金でいろんなものを手に入れていくたびに興奮度合いが下がっていき、二週間ほど経った最近はもうゲーム自体に飽きつつあるらしい。妹も兄につられて興味を失い、惰性でゲームをやっている様子。
昔、私がやっていた戦国ゲームは主人公の武将(要するに自分)の初期設定を自分で決められた。
寿命、武力、体力、知力、政治力、人望などの要素をすべて最大値にしておけば、大抵のものは思い通りになる。愉快この上ないゲーム展開になるのだが、実力で勝ち取ったものではなく、裏技なのでやがて楽しめなくなる。
お金も寿命も定めがあるからおもしろい。無尽蔵に富と寿命があったなら本当に幸せになれるかどうか・・・。
秦の始皇帝(紀元前3世紀ころ)は中国大陸を統一平定し、富と名声をすべて手に入れた。残るは不老不死だけである。
部下の徐福(じょふく)に、「蓬莱の国(今の中国山東地方にある仙人の山)へ行き、仙人を連れてくるように。あるいは仙薬を持って帰るように」と命じた。
しかし、仙人も仙薬もさがし出せなかった徐福は始皇帝の怒りを恐れて、そのまま日本に「亡命」した。
徐福以外にも「不老不死」の薬を開発するよう命じられた部下たちは、連日のように始皇帝から「まだか!」と催促されていた。
そしてある日のこと、ついに「辰砂(しんしゃ)」という究極の薬を開発した。これで始皇帝にやいの、やいのと言われなくて済む。
その秘薬は、水銀などを原料とした丸薬であり、それを飲んだ始皇帝は猛毒によって即死した。不老不死をつよく求め、かえって早死にしてしまった始皇帝。
究極のゲームを目指して裏技をみつけ、結局楽しめなくなってしまった小学生とどこか似ている。
お金も健康もなにもかも、無尽蔵ではないから貴重でおもしろい。
人間が唯一、無尽蔵に持っているのは潜在能力と可能性だけだろう。