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日々の歩みは亀に思えるが・・・

製造業は QCD が大切だといわれる。
「Q」とは Quality(品質)、「C」とは Cost(原価、価格)、D はDelivery(納期)である。

「株式会社A」(山形)は41年前、QCD のすべてが不十分な会社だった」とA社長は語る。
品質は悪い。納期は守れない。唯一、価格だけは安かったので、当然赤字だらけの会社だった。幸い不動産があったので、それを担保に銀行借り入れを繰り返していたが、いくら借りても2~3ヶ月したら、きれいに消えてなくなる。自宅は8番抵当まで入っていたそうだ。

その当時、会社を継いだばかりのA社長は、「このままでは会社が潰れる」と思ったそうだ。
社員に技術がない。工場に良い機械がない。設備投資したくてもお金がない。あるものは何かと考えたら、誠心誠意の心しかない。

A社長は腹をくくった。
ないものはしようがない。あるものだけで勝負するしかない。その日から「誠心誠意」の対応をかたく心に誓った。納品が終わった直後に客先に直接出向き、御用聞きをした。

「納めさせていただいた製品はいかがでしたか?」「何か問題はございませんでしたか」と。問題があればすぐに対応した。
納期についても、「明日中に必ず」と約束していながら明日中に届けられないことがしばしばあった。結果的にお客にウソをついていたことになる。一時的にお客を電話で安心させても、その期待を裏切っていては信用をなくすばかりだ。
今後は先手必勝でいくことにした。定期的に作業の進捗を客先に報告し、正確な納期見通しをこちらから先にお知らせするようにした。

すると仕事がポツポツ舞い込むようになった。時には「Aさん、納期まで五日しかない仕事があるのだが、引き受けてくれないかな?」というような無理難題が舞い込むこともある。
そんなときこそ信頼を得る最高のチャンスだと思い、社員総出で対応し、お客に喜ばれたりした。

こうしたコツコツとした取り組みが評価され、大手顧客 N 社 から機械の払い下げを受けたり、技術指導されたり、思わぬような大きな案件を任されるようになった。

A社長の誠実さと経営方針の確かさが客先から評価されると次はもう一度別のことで腹をくくった。
それは客先を N 社のみに絞る、という決断だった。
客先を一社にすることは本来リスクが大きくあまり良いことではない。
だが、この果敢な決断が N 社の役員や幹部を動かした。やがてあたかも N 社の自社工場であるかのようにA社に仕事を任せてくれるようになった。
「Q」「C」「D」に対する要求はあいかわらず厳しいが、その厳しさは、認めた相手に対する敬意あるものだ。

A社長が最初に腹をくくってから41年経った。
先日の7/8(土)に行われた経営計画発表会では、300名近い社員が一堂に会し、社長や部門リーダーの発表に耳を傾けた。
私も来賓席でそれを聞かせていただいたが、一段と会社も社員も成長されたように思う。東北屈指の名企業に仲間入りしたのは間違いない。

経営とは日々の積み重ねであり、その歩みは亀のようにみえるが、長年月かけて劇的に変わるものでもある。それを教えていただいた気がした。