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イノベーションと太盛難守




マーケティングとかイノベーションとかソリューションとか、不思議なことにビジネスワードの多くはカタカナである。日本人なら日本語を使え、と言いたい気分だが、英語力が乏しい日本人。今後の国際社会を見据えると、いちいち和訳するのは inelegant(野暮)な気もする。

さて、今日はイノベーションについて考えてみたいが、イノベーションとは、四字熟語にある『太盛難守』ではないかと私は思う。

あるコンビニでプリンを買おうとレジへ持って行ったらバーコードが読み取れない。店員はすぐに理由が分かったらしく、新しいプリンを取りに売場へ走った。あとでわかったことだが、賞味期限が切れていたらしい。

食べ物に賞味期限があるように、私たちがいま提供している製品やサービスにも賞味期限がある。
バーコードが反応しないといった分かりやすいシグナルはないものの着実に今の製品やサービスは、賞味期限切れにむかって進んでいるのは事実だろう。

あっという間に賞味期限が切れることもある。
昭和46年に起きたボーリングブームのときは、毎日ボーリング番組がテレビ放送され、ボーリング場に行くと3時間待ち、4時間待ちが当たり前だった。「これは儲かる」と、雨後の竹の子のように全国各地にボーリング場が出来ていった。私の親戚のおじさんは当時50歳ぐらいで、鋳物会社の社長だったが、「プロボーラーになる」と言い出して、レッスンプロを雇ったほど。当時高校生だった私に「信行君にもマイボールをプレゼントしたろうか?」と言われたが、興味がなかったので辞退したのを憶えている。
その後、信じられないことにボーリングのブームは2年ほどで終わってしまった。桜が散るようにあっという間のできごとだった。
親戚のおじさんもボーリング用品を捨ててゴルフ道具を集めていると言っていた。

「まさか!」と思ったのはボーリング場をつくった経営者だろう。
人気プロボーラーを招いてイベント企画をしたり、ゲームセンターやレストランを併設するなど集客に躍起になったが、連日閑古鳥が鳴きはじめた。やがて、無残にもボーリングピンの看板を屋上に高々と掲げた各地の大型施設は廃墟と化していった。

ボーリングのように一時的なブームで終わる短命なビジネスがある一方、何十年、何百年と続くビジネスもある。
たとえば鉄鋼業などは、人類の歴史とともに発展した。近代鉄鋼業と呼ばれるものをみても、18世紀末のイギリスにおける産業革命期に端を発する。つまり、200年以上の賞味期限をいまだに保持している業界である。むろん、鉄の品質も生産システムも大きく変わってきたはずで、まったく同じビジネスではない。だが人々が鉄を必要としているという点では今も昔も変わりはない。

「外食」という概念ができたのは室町時代の「茶屋」にさかのぼるそうだ。つまり600年ほどの歴史があるわけだが、今日のスタイルの「外食産業」ができてからは数十年の歴史である。
外食業界という大きなくくりは今も未来も変わらないが、その中味は大きく様変わりしていくだろう。

私たちが使っている「スマホ」を発明したのは Appleの iPhone だが、今年で発売されて早10年になる。今なおスマホは新しいが、果たして次の10年、20年を見据えるとスマホは何物かに取って代わられている可能性も高い。

すべてのビジネスやビジネスモデルには賞味期限がある。

だからこそ、イノベーションを起こせる会社になる必要がある。自分の会社が自分の会社を時代遅れにできるところだけが賞味期限切れを恐れないでいられるのだ。

それがどうして四字熟語の「太盛難守」なのか。そもそも「太盛難守」とは何なのか。

<明日は金曜日なので、来週につづく>