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劇団四季がなぜ強い

先月、劇団四季のミュージカル『ライオンキング』が史上最速で国内3,000回公演を達成した。これは、1998年12月の初演以来4年5ヶ月での達成となり、日本演劇史上最短での快挙となる。

ちなみに同劇団での3,000回公演は、『キャッツ』が約12年、『オペラ座の怪人』が約14年で到達しており、今回は大幅な記録更新というわけだ。
このデフレ経済化にあって、一万円もする席が飛ぶように売れ続ける訳は何か。私は、3,000回公演達成の直前にあたる5月8日(木)、東京浜松町の四季劇場に出向き、『ライオンキング』を観てきた。

たしかにステージは圧巻そのものである。アフリカの大自然と親子二代の感動ドラマを、あの限られたステージで表現しきってしまうとは、仰天である。
だが、そうした目に見えるものだけが劇団四季の強さではないはずだ。

週刊東洋経済2003年1月11日号 特集「『感動』を売る極意」によれば、劇団四季の業績は右肩上がりである。売上高は約200億円、経常利益率は15~20%という実績が続いている。さらに同誌によれば、創業者の浅利慶太氏は「資金には困っていないが」と前置きしつつも、株式公開の噂も否定していない。ますます社会性を帯びた組織になろうとしている。

劇団四季だけがなぜ強い?

その答えを探るうち、同社のサイトにヒントが隠されていることがわかった。それは「理念」である。「理念」の力である。劇団四季のサイトでは、1953年(昭和28年)に四季を創立したときの仲間、日下武史氏と浅利慶太氏との対談が掲載されている。

そこで浅利氏は、「僕の一生を決めた」として『演劇論』(ルイ・ジュヴェ著)の一節を紹介しているのだ。

同社サイトから一部引用してみよう。

日下:フランスの大演出家で、プロデューサーでもあったルイ・ジュヴェの「演劇論」を讀んで以来だね。
浅利:そう。そこに「演劇の問題」というエッセーがある。それが僕の一生を決めた。
日下:内容を話してみてよ。
浅利:最近朝日新聞の読書面に連載したエッセーの中で紹介した。ちょっと堅い文章だし、長くなるけれど、読んでみようか。
日下:是非やってよ。
浅利:「演劇に諸問題などありはしない、問題はただ一つだけだ。それは当るか当らないかの問題だ。当りなくして演劇はない。大衆の同意、その喝采、これこそこの芸術の唯一の目的と断じて憚らぬ。演劇は先づ一つの事業、繁昌する一つの商業的な企業であらねばならぬ。然る後に初めて演劇は芸術の領域に自己の地位を確保することを許容される。二つの目標を同時に結びつけねばならぬ怖るべき二者選一、それは演劇の地位をあらゆる追従とあらゆる妥協の面の上に置く。現実的なものと精神的なものとが結びつき、相対立する必然とは正にかくの如きものであって、これを以てすればわれわれの職業の苦い快楽も、その憐れむべき偉大さも一挙に説明することが出来る。(鈴木力衛訳)」。こういうことなんだよ。
日下:四季の理念の根本にはこの考え方がある。

劇団四季 「二人の仲間」より
http://www.shiki.gr.jp/closeup/column/020701/04.html

うむ。

「演劇の問題はただ一つだけだ。それは当たるか当たらないかの問題だ。当たりなくして演劇はない。」とは何たる痛快な断言だろう。

そして中略があってのち、続く。

「演劇は先づ一つの事業、繁昌する一つの商業的な企業であらねばならぬ。然る後に初めて演劇は芸術の領域に自己の地位を確保することを許容される。(後略)」

これを演劇の問題だけではない。一般の事業においてもまさしく当てはまるはずだ。それはこうなる。

「事業の問題はただ一つだけだ。それは利益が出るか出ないかの問題だ。利益なくして事業はない。事業はまず一つの繁昌する商業的な企業であらねばならぬ。然る後に初めて事業は理念や思想の領域に自己の地位を確保することを許容される。」(「がんばれ社長!」訳)

この順序を間違ってはならない。