★テーマ別★

まくら、さわり、おち

Rewrite:2014年3月27日(木)

落語は「まくら」「さわり」「おち」の三部構成でできている。真打ちクラスになると、客席の顔ぶれをみて瞬時に「まくら」を変えることもするらしい。「まくら」からスムーズに「さわり」(「本題」ともいう)につなげていくのが腕の見せどころでもある。

「まくら」が上手い噺家の筆頭は柳家小三治で、高座でつかった様々な「まくら」を本にしたところ、実によく売れている。タイトルはそのものずばり『ま・く・ら』である。ご本人が「なんでこんなに売れてるの?」といぶかしがるほどよく売れて、ついに続編まで出た。それが、『もひとつ ま・く・ら』という。よくできた「まくら」は活字になってもおもしろいもので、電車で読むときには周囲に変に思われないようにせねばならない。

講演やセミナーでも「まくら」が役に立つし、ちょっとしたスピーチや会議でのあいさつ、自己紹介などにも「まくら」に相当する「つかみ」ネタをもっていると重宝する。それによってお互いの緊張が解けるし、好感度がグーンとアップするからだ。

40歳を過ぎても人づきあいが苦手だったという岩崎一郎氏がアメリカの街頭で 3,000人に声をかけた。自分を克服するトレーニングであった。最大のポイントは、話しかけの第一声を何にするかであったそうだ。それによって相手が足早に去って行ったり、立ち止まってくれたりする。その差は歴然であることに気づいた。

日本でもっとも効果的だったのは「すいません、道をお尋ねしたいのですが…」であることも氏が現場で見つけた知恵である。とにかく立ち止まってくれた相手に対して本当に道を聞く。その場所は相手が知っているメジャーな場所でなければならないだろう。問題はそのあとだ。相手が道順を教えてくれているほんのわずかな時間の中で次の会話の糸口を発見しなければならない。

・目的地のその場所へ行こうとしているのはなぜか
・自分はどのようなことに興味をもっているのか

など、自己開示を 30秒で行うと良いことに気づいた同氏。今度は相手に話をしてもらう番である。このように交互にいくつかの話題を交換しあっていくと会話にリズムが生まれる。それがうまくいくと会話が弾みだすという。

営業の世界では AIDMA (アイドマ)という言葉が有名だ。

最初の「 A 」はアテンション。どうしたら注意をひきつけることができるか。次の「I」はインタレスト。どのようにしたら興味をもってもらえるかである。この二つを総称して「つかみ」とも「まくら」ともいう。
次の段階の「 D 」はデザイア(欲しくなる)なので、これはプレゼンテーション(売り込み)の段階。そして「 M 」は相手にゴリヤクをメモライズ(連想)してもらう段階。最後の「 A 」はアクション。確信と行動を相手から引き出すためのクロージングの段階となる。

落語と商談を対比するとこうなる。

「まくら」 アプローチ
「さわり」 プレゼンテーション(商談)
「オチ」  クロージング

なかでも「まくら」が最難関ではなかろうか。そこをトコトン磨くことができれば、「さわり」も「オチ」も自然に上達するに違いない。