心構えを積極的にして、人生6分野で目標設定しようと教えているのが SMI プログラム。私は20代後半に SMIに出会い、40歳まで夢中になって勉強した。今もその教えが私の人生の生き方に影響を与えてくれている。
50歳になってマンダラと出逢った。仏教から宗教色を抜けば知恵の体系になる。仏教、特に密教の「空」(くう)の思想を学びつつ、マンダラの8大分野で人生目標を設定するのが今の私の習慣になっている。
SMI が教える人生6分野とは、
「経済職業面」「健康面」「家庭面」「精神面」「教養面」「社会面」の六つである。
一方、マンダラの松村 寧雄先生が説く人生8大分野とは、
「健康」「仕事」「経済」「家庭」「社会」「人格」「学習」「遊び」の八つである。
どちらも「人生はバランスである」という考え方であり、自分の器を大きくすることはすなわち人生の総合力を高めることを意味すると教えている。
仮に仕事がうまくいかなくても落胆する必要はない。大切な家族や健康があればいつだって再起を計れるじゃないか。
もし仕事をうまくいかせたければ、仕事面だけでなく、学習や健康、社会も充実させようではないか。そういうことに気づかせてくれるので、人生のトータル発想、バランス発想は有益である。
だが、それとは真逆の生き方もあることを知っておきたい。
「命はそもそも志を実現するための道具に過ぎない」という考え方だ。
大きな「志」(仕事の大目標)をもち、その実現にむけて一心不乱に働く。
志が叶うのであれば、家族も自分の命さえも差し出して惜しくないという考え方である。ある意味、極端なまでの人生アンバランス発想で、中国古典を読んでいるとそういった教えが随所にでてくる。
昨日号でご紹介した『靴下バカ一代』でも、越智直正会長(タビオ)が隋の時代の古典を引き合いにしておられた。こんな教えである。
「騎虎の勢い、下ることを得ず」
あるとき、天下統一の大偉業が終盤をむかえた高祖文帝は妻に「ひと段落したのでお前のところに帰ってひと休みしたい」と手紙に書いた。
それに対する妻の返事が「騎虎の勢い、下ることを得ず」だったのだ。
意味することはこうだ。
騎虎、つまり一日千里走るという虎の背にまたがっておられるあなたは大事業一歩手前です。ひとたびまたがれば、虎の背から降りることはできません。もし途中で降りたら、たちまちその虎に食い殺されます。そういって夫の帰宅を拒んだ。
私(武沢)はその一節を読んでいたく感心した。「志に生きる」とは、「騎虎の勢い、下ることを得ず」という生き方だと思った。
人生のバランスを80年、100年のスパンで取ることには賛成だが、一週間単位やひと月単位で取ろうとしてはならない。
9時から19時まで会社で働いて、友だちと21時まで夕食して、子供のために22時までに帰り、土曜日は家族サービス、日曜日は学習と健康管理の日・・・。
そんな中途半端なバランスを取ろうとしていては何もなし遂げられない。経営者は「騎虎の勢い、下ることを得ず」というような時期が何年か続いても良いと思う。いや、そうあるべきだ。
バランス感覚を意識しながらも、時にはあえてバランスを放棄し、一点にすべてを賭けねばならぬ時があることを。